出版社内容情報
社会に衝撃を与えた1970年の三島由紀夫割腹事件はなぜ起きたのか。憲法、天皇、自衛隊を論じた、時代と軌跡を客観的に描き出す。解説 鈴木邦男
内容説明
1970年11月25日、三島由紀夫と楯の会メンバーが陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で人質を取り、憲法改正と自衛隊員の決起を訴えた。そして、三島は森田必勝とともに割腹自決を遂げた。60年代後半、ベトナム反戦、全国学園紛争など反体制運動が高揚した時代、何が彼らを決起に駆り立てたのか?関係者への綿密な取材を基に、事件の全貌を冷静な筆致で描いた傑作。
目次
序章 十年目の遺書
第1章 「最後の一年は熱烈に待つた」
第2章 三島由紀夫と青年群像
第3章 「楯の会」の結成
第4章 邂逅、そして離別
第5章 公然と非公然の谷間
終章 「三島事件」か「楯の会事件」か
補章 三十一年目の「事実」
著者等紹介
保阪正康[ホサカマサヤス]
1939年、北海道生まれ。同志社大学文学部卒業。日本近代史、とくに昭和史の実証的研究を志し、歴史の中に埋もれた事件・人物のルポルタージュを心がける。個人誌「昭和史講座」を中心とする一連の昭和史研究で菊池寛賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫丸
12
知性の権化が天皇への絶対的帰依に至る回路。そのわからなさを辿ることは、溶暗の中を手探りで進むに近い。人類が簡単なアクシデントで命を落とす存在であった太古において、絶対的不幸は原理的に避け得ないものであったはず。理不尽に傷つき、死ぬ。しかしそこにたまさかの幸運が舞い降りれば、これもまた自然でありながら超自然的に感受される。重力の中の恩寵。政がまつりごとでしかありえない契機は、予想不可能な禍福の連鎖を支配する存在への憧憬にある。三島は政治と祭祀を区分した。日本の国体は祭祀の主体である天皇に存する。2019/09/03
うちこ
10
わたしは普段は「"美学" という言葉を使えばなんでも尊重されると思うなよ」というような考え方もしたりするのですが、こうして細かくこの事件の様子を追っていくと、こういう拠り所の求め方もあるよな、と思う。楯の会のあの制服もこだわりのデザインで、西武百貨店の人が苦労した話が書かれていて興味深いのですが、そういうプロデュース全般に手を抜かない意志のあり方には、刺激を受ける部分が多かったです。こんなとき軽薄なフレーズしか思い浮かばないことが自分でも残念なのですが、「精神的おしゃれさん」だなと。2018/04/21
Hiroki
7
mybook いまだ引き摺る三島由紀夫楯の会事件。上っ面のチャライ批評が多いが、保坂さんの緻密さ重厚さはとても大きなモノ・価値を突きつけている。単純に右だ左だと言う輩!オメェらのような本質から眼を逸らす無責任野郎が邪魔なんだよ。(昨年末からココに記録せずに読み飛ばしていた内の一冊)2022/03/27
新平
5
西部邁の『保守の遺言』を書店で求めた際に、目についたので同時に購入。いずれも自死に、ほう助者、介錯人がいた保守思想家ということで共通の興味の対象。西部の著作と読み比べると三島のそれは、政治思想とまで言っていいのか、文士の慰みレベルであるのは仕方がないところか。理想を政治という技術を用いて制度化していくためのリソースは彼にはなかった。 2018/04/30
まぶぜたろう
4
天皇制や憲法、自衛隊がその欺瞞をはらみつつ、既に合理化されている現在にあっての三島の思想の難解さ、純粋さと、あえて言うなら美しさ。右翼がレイシズムと同義となっている今を三島はどう思うだろう。2018/09/13