出版社内容情報
戦後の箱根開発によって翻弄される老舗旅館、玉屋と若松屋。そこに身を置き惹かれ合う男女を描く傑作。箱根の未来と若者の恋の行方は?解説 大森洋平
内容説明
箱根の山は天下の嶮か、ケンカのケンか?―足刈にある二軒の老舗旅館、玉屋と若松屋は先祖代々の犬猿の仲だ。だが若松屋の娘、明日子と玉屋の若番頭、乙夫は反発しながらも内心惹かれあっていた。いがみあう旅館、勃発する跡継ぎ問題、親から紹介された見合い相手、旅館の経営不振と大事故、乗り込んでくる都会の大資本…二人の恋の行方と箱根の未来はどうなる?
著者等紹介
獅子文六[シシブンロク]
1893‐1969年。横浜生まれ。小説家・劇作家・演出家。本名・岩田豊雄。慶應義塾大学文科予科中退。フランスで演劇理論を学び日本の演劇振興に尽力、岸田國士、久保田万太郎らと文学座を結成した。一方、庶民生活の日常をとらえウィットとユーモアに富んだ小説は人気を博し、昭和を代表する作家となる。『ちんちん電車』『食味歳時記』などエッセイも多く残した。日本芸術院賞受賞、文化勲章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヨーイチ
48
言うまでもなく、文六先生の小説はハッピーエンドというか「収まる所に収まる」形をとり笑顔で終わる。本作もそうなのだが、「収まり方」が少々意外であった。なんで?!って程ではないが「そう来たか」って感じ。ネタバレになるので詳細は控えるが発表当時の世相、雰囲気を考慮すると反動(当時の)呼ばわりする人も居たのではって気がする。まあ70を超え、勲章も貰った大作家だから当然とも言えるが。そんな考え方をするのも此方が年を取ったってことにもなるのかも知れない。続く2018/02/10
shizuka
47
老舗旅館のばちばちバトルの一冊。いらん意地はって後に引けなくなって百余年。でもそこにもなんだかんだで新風が。玉屋の使用人ドイツ人ハーフの乙男(Otto)くんと若松屋の娘、明日子ちゃん。明日子ちゃんが英語が苦手なのが幸いして、こっそり乙男くんと家来契約(あたしに英語を教えること)を結ぶところから、両老舗旅館の思惑がずれはじめる。乙男くん女中の息子だから根っからの使用人気質。家来契約を嫌がらずに承るとか。でもそんなピュアさが明日子の気持ちも動かすし、最終的に箱根戦争に終止符を打つことに。平和が一番だね。2019/08/13
道楽モン
42
昭和36年の新聞連載小説。この頃には獅子文六も大御所となり、大衆小説作家としての貫禄充分で、インテリ特有の俯瞰した視線も嫌味に感じない。文句なしに面白い! 当時、社会を騒がせていた西武、東急、藤田観光による箱根の観光地開発戦争(wikiで箱根戦争を参照)を背景に、2つの老舗旅館によるロミオとジュリエット要素を加味しつつ、時代の趨勢と戦う物語。話は箱根戦争の概要からスタート。事実は小説より奇なりで、本当にバカバカしい争いをしてたんだなぁと呆れます。一昔前のエンタメは明るい物が多かった。隔世の感があります。2024/09/02
おいしゃん
40
久しぶりの獅子文六作品だったが、こちらもまた読みやすくも奥深く、ユーモアたっぷりの楽しい本だった。 冒頭の箱根を巡る鉄道会社同士の利権争いから一転、物語の大半は箱根のある旅館同士の確執を描く。 不思議と全く古さを感じさせず、最後まで飽きることなく引き込まれた。両家の若人たちの行く末がとても気になる…。2020/06/03
みつ
23
時代は1960年代初頭、政治から経済へと季節が変わる頃。箱根の新たな開発のため、対立する大手私鉄傘下の地元企業が画策する道路の新設と遊覧船の急造。いがみ合う地元の老舗旅館が企図する次の一手。それぞれの旅館の若い男女の未来・・・と様々な要素を織り交ぜて物語は進む。読み手により興味の対象は異なることになろうが、著者の語り口の巧みさと場面転換の速さで次への興味を掻き立てるのは、新聞連載のゆえか。終始明朗な小説に「アイノコ」(今では使えない差別表現)と呼ばれる青年の出自、箱根の盛衰の歴史に、戦争の影が落とされる。2021/09/19