出版社内容情報
荷風を熱愛し、「十のうち九までは礼讃の誠を連ねた中に、ホンの一つ」批判を加えたことで終生の恨みをかってしまった作家の傑作評伝。
内容説明
「十のうち九までは礼讃の誠を連ねた中に、ホンの一つ、荷風文学の病弊と見た点を指摘したこと」で終生の恨みを招いた。芸術家が人情に興味を持ってはおしまいだ、「新橋夜話」「すみだ川」は生命の旋律が響いてこない。鴎外、芥川、佐藤春夫との付き合い、ゴシップ、エピソードなど文壇裏話を交えて、人間永井荷風を活写する。幻と言われた傑作作品の文庫化。
著者等紹介
小島政二郎[コジママサジロウ]
1894‐1994。小説家、随筆家、俳人。東京下谷に生まれ育った。慶應義塾大学在学中から「三田文学」に作品を発表。1922年『一枚看板』で文壇にみとめられ、戦前から戦後にかけて一世を風靡した。文壇の中心人物としても活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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寺(いつも上品でごめんね)
95
永井荷風に悪口を言われた小島政二郎が書いた『小説 永井荷風』。書いて「さあ出版」という所で荷風の遺族からストップがかかり、小島没後の2007年にようやく陽の目を見たといういわく付きの本である(小島は平成6年没)。しかし、良くも悪くも無類に面白い本である。荷風伝&論でありながら、明治の文学青年だった小島の精神史でもある(©️加藤典洋解説)。最初は荷風と小島の因縁に触れ、荷風の欠点を指摘する。荷風の友人まで悪し様に書くのはいかがなものかと思いきや、この後で荷風を褒める。ここで本書が爆発するのだ(つづく)。2019/10/01
ちょろんこ*勉強のため休止中
37
筆者の豊かな見識、独自の視点によって荷風が生き生きとした色彩豊かな人間として浮かんできました。イヤミで自分勝手、無類の女好き。しかも人の真心が通じない冷血漢。そういう面と、荷風のあの情緒ある流れるような文章の不思議な表裏一体さ。評伝ではなく小説とあるところに多分に筆者の私見が入っており、それ故に荷風というパズルを組み立てていくような面白さでした。当時の世相や文人のエピソードも興味深かったです。荷風がモテモテだったのが信じられず、若い頃の画像をググったら雰囲気ある眼力強いナイスガイでした(*゚д゚*)2013/11/24
ワッピー
7
荷風にあこがれ、慶應の文科に入った小島政二郎の荷風小説。批判をしたために、荷風に容れられなかったとはいえ、かえって鋭くその本質を抉り出しているとも言えます。随所に荷風の批判をしてはいるものの、むしろ荷風愛にあふれています。これまであまり理解していなかった一般名詞としての「小説」のあるべき姿が見えたような気がします。ちょうど「断腸亭日乗」を併読していたので、日乗には出てこないエピソードから荷風の面白さ、魅力の由来を知って楽しみもまたひとしお。この本を読んで、「濹東綺譚」他の作品を再読する楽しみが増えました。2018/08/22
ゆきらぱ
5
こんな事書いていいのかね、と最初はハラハラしたが全編通じて荷風を否定している文にはどこか迫力があり、次第にその考えが自然に思えてきてしまった。作中徳田秋声の名文の紹介があり、この際なので秋声を読んでみると確かに面白かった。2014/06/21
koala-n
5
永井荷風という、どうにも始末の悪い作家については、くさるほど評伝や随筆が出ているが、それらの中でもかなりユニークな一冊だと思う。あくまで「小説」と銘打っている通り、筆致は割合に奔放で、当時のゴシップや著者が聞いた評判やらが自由に織り交ぜられているので、荷風のみならず当時の世相や文壇事情が垣間見られて興味深い。また、著者の固持する文学観は今日的に見ればとても古臭いが、ある時代に確かにいた「文士」なる人種を偲ばせ、文学観はともかく人柄は好もしく感じられる。それにしても、荷風、知れば知る程困った人物のようだ。2014/01/31