内容説明
稀代のエンサイクロペディストが自ら選び編んだ最後のエッセイ集。
目次
1 西日の徘徊老人篇(西日のある夏;余生は路上ぞめきに ほか)
2 幻の豆腐を思う篇(すし屋のにおい;幼児食への帰還 ほか)
3 雨の日はソファで散歩篇(永くて短い待合室;素白を手に歩く品川 ほか)
4 聞き書き篇(江戸と怪談―敗残者が回帰する表層の世界;昭和のアリス ほか)
著者等紹介
種村季弘[タネムラスエヒロ]
1933年東京生まれ。東京大学文学部卒業。ドイツ文学者。該博な博物学的知識を駆使して文学、美術、映画など多彩なジャンルで評論活動を続けた。2004年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
162
「教養」とはこういうことを指すのかと。東京の電車ひとつ、豆腐ひとつ語っても読ませる知識の深さと幅広さ。特に後半「雨の日はソファで散歩」篇は江戸川乱歩、谷崎潤一郎、澁澤龍彦、三島由紀夫、永井荷風…と名だたる文士のエピソードが興味深い。少しばかり東京生まれ東京育ち感が鼻につく感じがするのは地方出身のコンプレックスゆえです。こういう知識が繋がってすらすらと出てくるのは憧れます。私は雨の日じゃなくてももっぱらソファで散歩派。2020/07/09
らん
25
素敵なタイトルと装丁が気になって手に取り、著者の豊富な読書量、知識の深さ、様々な体験からの引き出しの多さに圧倒されつつ楽しみました。この本を読んで豆腐と塩大福が食べたくなって食べる。一緒に翻訳もされた矢川澄子さんの話「東京アリス」チラッと森茉莉さんも登場し矢川さんの人物像を思い浮かべながら興味深く読みました。リルケや岡本かの子、谷崎潤一郎、澁澤龍彦さんの本が凄く読みたい。著者の他の本も読みたい。市島春城さん「読書八境」「読書の処即ち書斎」も気になる!私も雨の日はソファで散歩を楽しみたいと思います♪2023/06/30
傘緑
23
「…パリや京都のような何度となく没落を経験してきた都市がなぜ西日のさす窓を好んできたか…盛りの夏は、西側の太陽の没落の相で見るなら、死と再生の季節なのである」 種村季弘の最後の自選エッセイ集である。そのためか縁のあった土地の回想や鬼籍に入った友人の記述が多く目につく、が、”小言幸兵衛”の老醜に堕ちない、むしろ世の移り変わりを愉しんでいるかのように、どっしりと構えた老成を感じさせる。さすがに凡百の老人とは蓄が違うわけですねw 友人の挿絵画家の風風さんの辞世の句を紹介している「一生を四の五の言わずところてん」2016/09/19
アドソ
20
種村季弘さんの名を知ったのはもう30年ほど前、『ヨハン・ヴァレンティン・アンドレ―エの化学の結婚』の訳者としてでした。ちょうどそのころエーコの『フーコーの振り子』に出会ったりして、そういう世界に興味をもったものの、豪華装丁の「化学の結婚」を買ってみる勇気はなく。以来、ハードルが高いと勝手に思ってしまい、翻訳でも種村さんの本はなかなか読めずにいたけれど、「随筆なら読めるかも」と鼓舞して手に取ってみました。種村さんの肉声が聞こえてきそうな随筆に加え、最後の口述筆記は圧巻でした。2022/07/17
てら
15
読み始めはただの酒場放浪記かと思いました。ですが、それは私が騙されていたのです。酒飲みエッセイのふりをした壮大な戦後文化史でした。「地盤がないとユダヤ人と同じで、金貸しになるか、活字という空々漠々たるもので食うしかないんだね。〜ウソばかりついて世渡りするような(笑)。でもね、それが戦後の日本を支えてきたんじゃないかな。」と話す。戦後は今の若者には想像のつかない世界だろう。生き残ってきたのは生き残るだけのエネルギーを備えたものだけ。エッセイの奥行きが深すぎていろんなことに思い巡らせてしまった。2024/08/28