内容説明
1904年に発表されたチェスタトンのデビュー長編小説、初の文庫化。1984年、ロンドン。人々は民主主義を捨て、籤引きで専制君主を選ぶようになっていた―選ばれた国王は「古き中世都市の誇りを復活」させるべく、市ごとに城壁を築き、衛兵を配備。国王の思いつきに人々は嫌々ながら従う。だが、誇りを胸に故郷の土地買収に武力で抵抗する男が現れ、ロンドンは戦場と化す…幻想的なユーモアの中に人間の本質をえぐり出す傑作。
著者等紹介
チェスタトン,G.K.[チェスタトン,G.K.][Chesterton,Gilbert Keith]
1874‐1936年。ロンドン生まれ。イギリスの作家、詩人、批評家。美術学校を中退後文筆生活に入り、政治評論や文芸批評、評伝、小説など幅広い分野で活動した
高橋康也[タカハシヤスナリ]
1932‐2002年。東京生まれ。英文学者
成田久美子[ナリタクミコ]
1946年、埼玉生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ワッピー
33
奇妙な味海外読書会’21。20世紀初頭、英国は奇妙な平和の時代に入っていた。官僚の誰かが無作為に国王に選ばれるが、運命はふざけ屋のオーベロン・クインを選んだ。クインは全てのロンドン自治区に城壁を築かせ、中世の様式美を復活させ、その冗談を真っ正直にとったアダム・ウェインはノッティング・ヒル市長として他の街区からの街路譲渡を拒絶し、街区同士の内戦が勃発。寡勢ながらNH軍は地の利を生かして街区連合軍に勝利するも、NHの驕りは20年後に…。ウェインの崇高な狂気に絡め取られた国王、市長たちの変化に妙に納得しました。2021/05/05
藤月はな(灯れ松明の火)
31
民主制が廃止され、籤引きで僭主が選ばれるようになった1984年の英国。選ばれた僭主がきまぐれで時代復古しようと決めたことからすべての火種は始まった・・・・。気まぐれがやがては己の無二の信念へと変貌する様は思想の化物性を実感させます。それに振り回されないために足掻くのか、流されるのか、諦めるのか、考えるのか、傍観するのか?この後に読んだ「カリギュラ」の主人公とは自分の理想を叶えることを第一に考えるがために世界との差異に悩みながらも独裁を突き進むことでは共通しています。2013/05/13
星落秋風五丈原
27
「誰がやっても同じ」という理由で君主を選ぶ近未来。本当に皆が賢い民主主義国家であれば実際誰が選ばれても良いはずで論理自体は別に破綻していない。狂った世界を笑いで肯定しようとする男と、彼の冗談半分の論理に心酔した男がお互いトップだったために多くの血が流される。戦いの理由は、旗の下に戦わされる民衆には全くわからない。笑い飛ばして終わりたくなるが、存外現実の戦争もさほど変わらない経路を辿っている。「これは全て作家の妄想の産物である」と言いきってしまうにはユーモアにくるまれた予見性が邪魔をする恐るべきデビュー作。2015/05/07
三柴ゆよし
20
狂人のまねをして往来を走る者はすなわち狂人だが、けれどモノホンの狂人はもっと怖い。根が非論理的にできてる私にとって、チェスタトンのアクロバティックな逆説はレベル高すぎ、と以前から思っていたのだが、これは楽しめた。「すべての国民が平等なのが民主主義なら、別に籤引きで首長を決めたって同じでしょ?」こういう中坊臭いロジックには人間だれしも魅了された時期があるよね。僕はあるよ。上面だけ読めば御都合主義のかたまりみたいなアホ小説である。正直私は上面だけ読んだ。生まれつき狂人は好きな方だが、もっと好きになった。2011/11/11
Tetchy
15
冒頭の2章までこの小説をなんと称したらいいだろうか、私には皆目見当が付かなかった。最初の100ページまではチェスタトンお得意の言葉遊びに満ちており、ストーリーが全く見えてこない。ここら辺は非常に難解で思考があっちこっちに飛び、理解に苦しむ。しかしやはり奇想の思想人チェスタトン。そこを過ぎると実に面白いストーリーが見えてくる。しかしこの小説は初めてチェスタトンを読むにはかなりハードルの高い小説だと思う。他の作品を愉しんだ者はチェスタトンはやはり最初からチェスタトンだったと思えるだけに嬉しい作品だ。2010/07/17