内容説明
漱石の死とともに未完に終わった『明暗』―津田が、新妻のお延をいつわり、かつての恋人清子に会おうと温泉へと旅立った所で絶筆となった。東京に残されたお延、温泉場で再会した津田と清子はいったいどうなるのか。日本近代文学の最高峰が、今ここに完結を迎える。漱石の文体そのままで綴られて話題をよび、すでに古典となった作品。芸術選奨新人賞受賞。
著者等紹介
水村美苗[ミズムラミナエ]
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞を受賞。98年に辻邦生氏との往復書簡『手紙、栞を添えて』刊行。2002年『本格小説』で読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
70
『明暗』(未完)の続きを読んでいる感覚が確かにある。だからこそ分かり易すぎる展開なのではないかとか、文章自体も読み易すぎるのではないかとか、チラチラ思ったりもした。でも気付くとそういうことに関しては二の次になっていた。「『続明暗』を読むうちに、それが漱石であろうとなかろうとどうでもよくなってしまう—そこまで読者を持って行くこと、それがこの小説を書くうえにおいての至上命令であった」とあとがきにあって、そう書かれてしまうとなんだか策にはまった感があり悔しい気もしなくもないが、わたしはこの続編はありだと思った。2021/12/25
Tui
34
『明暗』の最終章である第108章がまず書かれており、水村美苗の手による夏目漱石の遺作のそれからの物語は始まる。パスティーシュとしての著者の技量は、さほど夏目漱石を読み込んでいない私には評せぬところ。それよりなにより、原編の伏線がみごとに回収され、みにくき者はそのみにくさに磨きがかかって、笑えるほどの修羅場となる痛快さ。真っ向から夏目漱石の憑依たらんと挑みつつ、物語としての進化をも目指す大胆さ。明暗より、読んでて楽しかった。2019/09/30
ロマンチッカーnao
27
水村美苗さんの作品を一つづつ読んで言っています。どの作品もTHE文学という感じですが、この作品がデビュー作という事で、しかも夏目漱石の未完作品の続編。夏目漱石が提示したそれぞれの登場人物の性格を踏まえての温泉場という小さい舞台で繰り広げられる心理劇。当然のように結末は悲惨なものだけど、それも十分納得のいくもの。時間をおいて明暗と続きで読むとどんな感じがすんだろう。。一度試してみたいと思います。しかし、水村作品は質が高い。できれば、もう少し作品数がおればうれしんだけど。。2016/10/11
❁Lei❁
25
どうしても『明暗』の続きが気になり読了。『明暗』と比較すると、心理描写が少なく対人関係の緊張感はあまりありませんが、文体はそのまんま漱石で違和感なく読めました。また『明暗』の伏線が丁寧に拾われ、そこから導き出され得る物語が展開されていました。清子が津田を捨てた理由も納得だし、技巧による余裕を突き崩されたお延の自然への開眼の描写も素晴らしかったです。津田やお延だけでなく、読者も一皮剥けるような作品でした。2022/05/15
けぴ
25
漱石で一番のお気に入りの『明暗』。その”続”です。本編を読んだのは2年以上前ですが、登場人物紹介が冒頭にあるのですんなりと読み始めることができます。予想以上に面白かった! あとがきの記載されていますが、筋の展開を劇的にしようと意図して書いたそうです。津田と清子がどうなるのかモヤモヤしていた読者には、なるほど、と思わせる小説です。水村美苗さんにとって初の小説ですが力作でした。2018/04/27