内容説明
准男爵の娘アン・エリオットは二十七歳、独身で、影の薄い存在だ。八年前、周囲から反対されて海軍軍人のウェントワースとの結婚をあきらめたことが、いまだにアンの心に影を落としている。しかし、そんなアンに思いがけない再会が待ち受けていた。イングランドの美しい自然を舞台に、人生の移ろいと繊細な恋心をしみじみと描くオースティン最晩年の傑作。定評ある読みやすい新訳で贈る。
著者等紹介
オースティン,ジェイン[オースティン,ジェイン][Austen,Jane]
1775‐1817。イギリスの小説家。おもに結婚話を題材とした、平凡な日常生活のドラマを皮肉とユーモアをもって描き、完璧な芸術へ高めたと言われる。一見同工異曲の結婚話だが、六冊の長篇小説のヒロインたちはすべてタイプが違い、異なった趣向が凝らされていることも特筆に値する
中野康司[ナカノコウジ]
1946年神奈川県生まれ。青山学院大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のっち♬
142
準男爵の次女アンは周囲の説得でかつて結婚を拒絶したウェントワースと8年ぶりに再会。原因となった経済格差は今や逆転、見た目も衰えたヒロインの胸のざわつきが静かなプロットの上に丁寧に描かれる。彼の一挙一動にひたすら一喜一憂、コメディ色も控えめだがその分登場人物たちの情緒が豊かに引き立っている。ミステリー小説さながらの伏線の貼り方も推進力になっている。なんと言っても手紙を読むシーンの緊張感は圧倒的であり、著者の執筆における最大のハイライトの一つだと思う。晩年の彼女だからこそ描けた芯の太い成熟した女性像だ。傑作。2017/07/26
まふ
120
著者の長編最後の小説。物語は1800年初頭でナポレオン戦争真最中の頃、貴族の階級にこだわる準男爵が贅沢生活を維持できず新興階級に屋敷を貸さざるを得ない状況下でのコミカルな要素をたっぷりと含んだ恋愛劇である。内容はそのまま今日のホーム・トレンディ・ドラマに仕立てられる話であり、時代を反映して海軍士官が主役となるところはまさに今日的センスで言えば大型旅客機の機長もしくは宇宙飛行士みたいな話ではないかと思われ興味深い。嫌味なくオースティンの世界が楽しめる作品である。G1000。2023/11/17
はたっぴ
87
オースティン二冊目も大満足。主人公アンの人物像がストーリーにぴったり合っていて、読み進めたい気持ちと小説の世界に浸っていたい気持ちのせめぎ合いだった。アンの家族が自分勝手に振る舞うほどにアンの人柄や知性が引き立ち、彼女の八年越しの恋の行く末に没頭した。二人の再会から交わされた会話の一つ一つ、終盤の心のこもった手紙、いずれにも胸をときめかせながら結末までしっかり楽しめた。積読している『エマ』もゆっくり味わいたい。【G1000】2018/10/17
星落秋風五丈原
79
【ガーディアン必読1000冊】財政難で家を明け渡すことになった相手の弟が、何と振った相手のウェントワース大佐!まー、何なんでしょ。この降ってわいたような偶然は。そして「周囲に大佐との事を言ってないから気まずいわ」と思いつつも、なぜか彼と頻繁に会うシチュエーションも、まさにドラマ向け。グレアム・グリーンもサマセット・モームも女性に対して辛らつだと思っていたが、こと同性に対するオースティンの辛辣さときたら二人を軽く超える。北斗の拳のケンシロウの秘孔を突いてくる如く女性のイタイ所を余すところなくさらけ出す描写。2018/11/15
seri
72
私にとっての寝不足本。展開自体は静かなのに、先が気になって途中でやめられない。たとえ何年経っても人間の本質は変わらない。物語の中でも、この本自体も。知性と決断力を備えた女性の美しさ、虚栄に躍らされる滑稽さ、偽りの態度の醜さ。人間の心の機微が鮮やかに描き出されて百年以上の時が流れても色褪せない。その筆力に圧倒されてしまう。強い意志と強情さは違う、教訓的な啓示だって物語の骨格としてすんなり受け入れられる。ただ甘いだけの恋愛なんかじゃ決してない。深い河ほど静かに流れるように、奥深さのある恋愛がここにある。2016/02/21