出版社内容情報
類似を用いた思考、類推。それは認知活動のすべてを支える。類推を可能にする構造とはどのようなものか。心の働きの面白さへと誘う認知科学の成果。
内容説明
判断は類推に支えられる。心はどのようなメカニズムを持つのか。“われわれの認知活動を支えるのは、規則やルールではなく、類似を用いた思考=類推である”。本書は、この一見常識に反する主張を展開したものだ。類推とは、既知の事柄を未知の事柄へ当てはめてみることと考えられている。だが、それだけでは実態に届かない。その二項を包摂するもうひとつの項との関係の中で動的に捉えなければならない。ここに、人間の心理現象に即した新しい理論が提唱される《準抽象化理論》。知識の獲得や発見、仮説の生成、物事の再吟味にも大きな力を発揮する類推とは何か。心の働きの面白さへと誘う認知科学の成果。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りょうみや
27
人間(生き物)の思考の根源は類似(類推)であって規則的思考、論理的思考はその特殊なケースであることを多くの認知科学の実験例を用いて示している。これまでの認知科学の読書でおぼろげながら考えていたことをはっきりと文章化してくれていた。専門的で骨のある内容を文庫本らしく分かりやすく書いてくれている。著者の本2冊目であと2冊読む予定。2022/10/15
テツ
15
人の思考は規則的に論理的に紡がれているわけではなく、自らの内に積み重ねられた経験=過去の出来事から類似なものを探し出すというのが基本であるということ。知識と経験に基づき類推するという行為を膨大に積み重ねた果てに、知性が生まれ創造的な働きが始まるのって言われてみればあたりまえかもしれないけれど気づかなかったな。演繹ではなく類推。人間の思考が全てそこから始まるのなら、類推の種となる経験を積み重ねることだけが思考を深みに導き、真に知的な存在となるための方法なんだろうか。2022/10/16
jackbdc
6
思考とは見ていないものを経験や知識をもとに推測するもの。この推測が本書のテーマ。経験や知識をどのように活用しているかといえば、似た要素を抽出して、それを上手くあてはめる事が出来た場合に、私たちはそれを分ったと捉えるのだろう。本書の学びは、自分の思考を深める場合と他人とのコミュニケーションを円滑にするという両パターンにおいて抽象化力がカギになりそう。自分自身や他人が保有する経験や知識を活用(投射)可能な状態に変化させるのが(準)抽象化である。前者では抽象度を上げ、後者では具体性に配慮する差異はあるだろう。2021/11/03
medihen
6
ヒューマンエラーはなぜ起こるのか考えていて、漠然と「思考におけるルールの適用の失敗や逸脱」が原因では?と思っていたら、本書ではいきなり「思考はルールもとづいて行われるものではない」と断定されていてびっくり。人間の思考では類推が主要な役割を担っているという主張は例を挙げて説明されれば納得できるものの、それではなぜ人はミスを起こすのか、またわからなくなってしまった。2021/02/01
roughfractus02
6
論理は本書のいう思考の一部であり、思考は日常のあらゆる場面で行われている。つまり、思考は脳で行うのではなく、環境や他者と相互作用する身体行為において行うものである、と著者は言う。それゆえ思考は文脈依存的であり、形式化や抽象化を目指すものの、文脈から自由な抽象形式には至らない。本書は、過去のデータを試行錯誤的に写像して未知のターゲットに知を拡張するアナロジーに上記の「準抽象化」の働きを見出し、従来のアナロジー研究を辿りながら、演繹論理を中心においた人工知能とは異なる、類似を中心においた人間の思考を概説する。2020/03/28