出版社内容情報
ぬめり、水かき、悪戯にキュウリ。異色の生物学者が、時代ごと地域ごとの民間伝承や古典文献を精査。<実証分析的>空想生物学。解説 小松和彦
内容説明
水辺に出没する日本の妖怪・河童。本書は、民間伝承や文献に出現するこの空想生物を、時代ごと地域ごとに精査。そこから、近世の潅漑用水発達と鎖国にともない内陸の河沼へ目が向けられたこと、ワニやスッポンなど水棲生物を祖型としつつ、水死者・被差別民・処刑キリシタン等のイメージが多元的に重なって河童となったことが浮かびあがる。民俗学と科学史を横断した異色の生物学者による実証分析的空想生物学の著作。その底流には、日本人の生命観へのアプローチが満ち満ちている。
目次
第1章 河童前史
第2章 河童の行動
第3章 遺伝・変異および先祖がえり
第4章 近世知識人の河童イメージ
第5章 九州土着の河童イメージ
第6章 河童伝承における動物的・人的要素
第7章 近世一九世紀における河童文献の書誌
著者等紹介
中村禎里[ナカムラテイリ]
1932年、東京生まれ。東京都立大学生物学科卒業。立正大学教養部教授を経て仏教学部教授。同大名誉教授。専攻は科学史、民俗生物学。生物学を中心として歴史・民俗に関連した著書も多い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
55
妖怪の中でもメジャーな河童。それが文献に登場したのは近世。本書は河童以前の系譜から河童の行動等各論興味深いものばかり。ただやはりメインとなっているのは江戸時代で、半分くらいが『水虎考略』の書誌学的研究となっている。この部分は未読な本な上、研究が精緻すぎて読むのがきついかな。九州での河童と遭遇の聞き書きや河童のモデルを山人等に求めた部分は面白く読めたけど。特に河童との遭遇を精神医学の分野からアプローチするのは、何となく『遠野物語』の研究を思い出した。図も豊富だし、愛らしい妖怪の新しい一面を見つけられるかも。2021/05/24
∃.狂茶党
7
この資料精査の労力を、全てのオカルト系統のライターは、知っておくべきです。 この手法こそ、オカルト研究を真面目なものとする基盤です。 宇宙人と20世紀、空飛ぶ円盤の人類史、首が抜ける化け物の歴史などが求められる。2022/04/27
じぇろポーta
2
現代の日本人なら誰でも知ってる妖怪河童。鬼や天狗など他のメジャー妖怪と比べて意外なことにその伝承が確認できるのは比較的新しい時代(近世頃)からだという。妖怪の中でも比較的格の低い小怪・愚怪として誕生した河童の容姿・習性・性格などのイメージがどのように定着していったか。解説にて指摘された弱点もあるものの筆者の着眼点は大変面白く実に読ませる。第5章にて触れる江戸時代九州で河童と遭遇した人々の聴き取り記録集「河童聞合」の内容も興味深く、当時の人々が怪異をどう認識していたかがうかがえる。2019/12/11
in medio tutissimus ibis.
1
一応古代の水霊の系譜を抑えてはいるけれど、河童が文献上に出現するのは割合近世になって、海禁と灌漑の広まりによって水が制御可能な時代から。なので子供はともかく大人相手には割と無力で逆に懲らしめられて詫び証文書かされたりと、零落するまでもなく最初から間抜けなイメージ。そして本書の白眉は、そんな河童を近代日本の学者たちは昔の書物と遭遇した人の証言を突き合わせてそれがどういう生物なのか研究していた事とその系譜を明らかにしていること。ぶっちゃけ突っ込んだところは全然わからなかったけれど、すごいと思いました(小並感)2020/03/03