出版社内容情報
ホロコースト・死刑・冤罪の分析から現れる責任の論理構造とは何か。そして人間の根源的姿とは。補考「近代の原罪」を付した決定版。解説 尾崎一郎
内容説明
人間は自由意志を持った主体的存在であり、自己の行為に責任を負う。これが近代を支える人間像だ。しかし、社会心理学や脳科学はこの見方に真っ向から疑問を投げかける。ホロコースト・死刑・冤罪の分析から浮き上がる責任の構造とは何か。本書は、自由意志概念のイデオロギー性を暴き、あらゆる手段で近代が秘匿してきた秩序維持装置の仕組みを炙り出す。社会に虚構が生まれると同時に、その虚構性が必ず隠蔽されるのはなぜか。人間の根源的姿に迫った著者代表作。文庫版には自由・平等・普遍の正体、そして規範論の罠を明らかにした補考「近代の原罪」を付す。
目次
序章 主体という物語
第1章 ホロコースト再考
第2章 死刑と責任転嫁
第3章 冤罪の必然性
第4章 責任という虚構
第5章 責任の正体
第6章 社会秩序と“外部”
結論に代えて
補考 近代の原罪―主体と普遍
著者等紹介
小坂井敏晶[コザカイトシアキ]
1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナクマ
44
「責任とは何か」から始まり「大切なのは根拠の欠如を暴くことでなく、無根拠の世界に意味が出現する不思議を解明することだ。道徳や真理に根拠はない。しかしそれにもかかわらず、根拠が存在すると感知されなければ人間生活はありえない」(p.384)までの長い旅。◉ホロコースト、死刑制度、冤罪、自由意志、集団責任、道徳の根拠生成などに途中下車して、それぞれの街路を歩いて散策する。◉終着には、遠くの見知らぬ世界に運ばれるのではなく、ぐるりと一周して同じ地点に戻ってくる感じ。しかし、その景色は以前とは少し違って見えるのだ。2020/06/17
テツ
19
「何事も自由意志による選択の結果なのだから全責任はその主体が負わなければならない」という今の時代の大多数の人がふんわりと納得してしまいそうなことについての疑問と思考。責任とは何か。責任を取るとは何か。それについての虚構とは何か。現実問題として責任を要求されたときにここで著者の方が積み重ねられた思考が役に立つわけではないけれど、こうした考えをもっているということ自体が生きていく上で自分を救うタリスマンになる気がします。2020/04/12
ネムル
14
「社会秩序という意味構造の中に行為を位置づけ辻褄合わせをする、これが責任と呼ばれる社会慣習の内容だ」、責任と因果論の鎖を切り離す論点が多く、読み応えがある。だが、<にもかかわらず>責任を引き受けることに関しては、読む前も後ももやもやしたまま。2022/04/14
月をみるもの
14
Kindle増補版を早速ゲット 「もう一つ、小坂井理論が他の理論と一線を画しているより重要なポイントがある。すなわち、「主体」をはじめとする「神の亡霊」たる諸概念が虚構であると喝破しつつも、いやまさに(氏のいう意味での)虚構であるがゆえに、それに代わる「真実」なる「実体」や「根拠」を要請しないということである。「虚構」はその意味で狭義の「フィクション」とは異なる。なぜこのことが重要か。」2021/01/30
teddy11015544
11
話すことで自分が何を考えているのかがわかることはあるが、書きながら思考を組み立てていっているのか、と構築に納得しました。数編読んだだけですが、一気に降りてきたものでなく、歴史の巨人たちの背中に上に立ちながらも、個人の中でもなお徐々に組みあがってきている思考体系の歴史を感じました。2021/05/29