出版社内容情報
人間には予めものの見方の枠組がセットされているーー平明な筆致でも知られる著者が、カント哲学の本質を一から説き、哲学史的な影響を一望する。
冨田 恭彦[トミダ ヤスヒコ]
内容説明
我々が生きている世界は、心の中の世界=表象にすぎない。その一方で、しかし同時に「物自体」はある、とも言うカントの超越論的観念論。そのカラクリとして、基本的なものの見方・考え方の枠組みが人間の心にはあらかじめセットされているとカントは強調したわけだが、この点を強調することによって、その哲学は、後年の哲学者達の思想的転回に大きく貢献したと著者は説く。平明な筆致で知られる著者が、図解も交えてカント哲学の要点を一から説き、各ポイントが現代の哲学者に至るまでどのような影響を与えてきたかを一望することのできる一冊。
目次
第1章 カント略伝
第2章 なぜ「物自体」vs「表象」なのか?
第3章 解かなければならない問題
第4章 コペルニクス的転回
第5章 「独断のまどろみ」から醒めて
第6章 主観的演繹と図式論
第7章 アプリオリな総合判断はいかにして可能か
第8章 魅力と謎
著者等紹介
冨田恭彦[トミダヤスヒコ]
1952年、香川県生まれ。京都大学文学部哲学科卒。京都大学博士(文学)。ハーバード大学客員研究員などを経て、京都大学大学院人間・環境学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
44
本書の特徴は、研究の厚みがあるカントが衒学的にならないように、用語とその意味を簡潔に規定していることにあります。これによって、カントを文化批評に応用でき、第8章のカント批判に展開しているので、著者の意図を汲み取れば、用語の簡略化は読者におもねるものでないのが分かります。それこそ、用語の厳密性を追求することは、分析判断であって、総合判断ではないでしょう。カント批判でデイヴィッドソンが登場しますが、ヘーゲル、ニーチェにも触れており、ものの見方の普遍派と変化派に分けて理解するという議論を興味深く読みました。2020/03/29
ラウリスタ~
27
なるほど、なんで今まで哲学書を読んでも分からなかったのかが、この本を読むことで分かった。というか、今まで字面だけを追っていた読書がいかに無駄であったのか、よく分かった。超越論とかアプリオリだとか、そういうもっとも大切な単語から懇切丁寧に説明してくれる。僕のような哲学の「て」も知らない読者にとっては、この講義形式の入門書を通過しないと絶対にカントを読むことはできないだろうなと思った。ただどこか一箇所を読み飛ばしたら、その先が一気にまた分からなくなる。積み木の城を組み上げていくようなとっても大変な読書。2017/04/26
うえぽん
22
カントは物自体から触発されて現れる表象のみを心が知覚し、物自体は存在するがそれ自体を認識することはできないとする。二つの認識源泉のうち、感性については、現象としての対象を直観する際に、すべて空間及び時間の中に現れるとし、知性とは、単一性、実在性、相互性といった12個のものの見方(純粋知性概念)だと言う。これらには経験によらず、アプリオリに備わった仕掛けがあり、例えば心の中や紙の上で図形を描き考察することが可能と言うが、自分には数学や自然科学においても、感覚的な経験なしに心の中だけで考察可能とは考え難い。2023/09/29
またの名
20
砕き過ぎでは?と思わせるほどの口調で、しかし押さえるべき点は逃さない絶妙な解説。専門家でないからこその距離を置いてカントのロジックを明らかにし、無限判断を不確定命題と訳す方が良いと指摘するなど、語学的にも十分な説明を入れる。ロックやバークリら英語圏の系譜から眺める視点は物自体を巡る認識論については秀逸だけど、著者が筆を擱いた先にある認識不可能な物自体以上の性格を持つヌーメノンや自由といった、カントの魅力的かつ厄介な本領には言及しない。既に良書だが消極性を積極性に転じるあのロジックまで追及してほしいところ。2017/11/06
泉のエクセリオン
16
本書はカントの難解な用語をドイツ語、ラテン語といった語源まで遡って解説しているので理解がかなり深まる。又「先験的」というのはカントの著書で良くみるが、「先験的(ア・プリオリ)」とア・プリオリな総合判断のことで、本当に普遍的な事柄なら、つまり真理であるなら、経験に依らずに証明可能なハズである。大体のことは「純粋知性概念、12のカテゴリー」の中にあるのでまずはそれの批判、検討を行う。なので「純粋理性批判」とは経験に依らない先験的な理性、その批判ということであろうか。「人間は何を知り得るか」を検討していくのかな2024/07/01