出版社内容情報
諸子百家の時代、儒家と並び勢力を誇った墨家の学団。全人を公平に愛し侵攻戦争を否定した独特な思想を、読みやすさ抜群の名訳で読む。
内容説明
中国古代・春秋時代末期に興り、諸子百家の時代にあって儒家に比肩する勢力となった学団・墨家。自己と同じようにすべての人を公平に愛す「兼愛」、侵攻戦争を否定して防衛技術を磨く「非攻」、身分の貴賎にかかわらず有能な人物を登用する「尚賢」など、その特異な思想は、秦漢以降の統一王朝時代に入ると、突如この世から消え失せてしまう。遺されたテキスト群のうち、謎に包まれたその思想の真髄を伝える最重要部分を訳出したのが本書である。抜群の読みやすさと正確さで定評のある名訳に、明快な訳者解説を付す。
目次
尚賢篇
尚同篇
兼愛篇
非攻篇
節用篇
節葬篇
天志篇
明鬼篇
非楽篇
非命篇
非儒篇
耕柱篇
貴義篇
公孟篇
魯問篇
公輸篇
著者等紹介
森三樹三郎[モリミキサブロウ]
1909年京都府生まれ。中国思想研究者。京都大学文学部哲学科卒業。大阪大学教授、佛教大学教授を歴任。仏教と老荘思想との関連を軸とした中国哲学史が専門。1986年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かわうそ
55
イエス・キリストは隣人愛を説きましたが、その遥か400年前に墨子は『兼愛』という言葉ですでにその思想を完成させていました。まさに西洋哲学が東洋哲学よりも発展していたという俗説を打ち砕くものともいえます。 墨子の説く『兼愛交利』又「天下の利を求め、天下の害を取り除く」ことを旨とする哲学は今の日本にこそ必要でして、互いに愛し合い、互いの利益になるように動く』という単純明快な思想は混沌とした世界の解決の糸口を与えてくれるものになるでしょうし、その明瞭さが実用性を担保してくれています。2023/03/13
壱萬参仟縁
29
大国が小国を攻めること、大家が小家を乱すこと、強者が弱者を却(おび)やかすこと、多数が少数に横暴すること、姦智あるものが愚者を欺くこと、貴人が賤人におごることなどが、天下の害である(038頁)。2018/03/01
きゃんたか
15
墨子は面白い。家族愛や祖国愛を基準とした別愛ではなく、親疎遠近の愛、一視同仁の愛、エゴイズムの否定の上に成る兼愛を説く。諸子百家の中でも例外的な有神論者として、天道でも天理でもない天帝の信仰に徳と福の一致を見た。宗教家にして政治家の彼は、兼愛と交利とを終始結びつけて考えている。そこから生まれた戦略とは侵略戦争の否定としての非攻であり、奢侈の排撃のための節用、節葬、非楽であった。戦国時代には儒家同様に集団を形成するものの、その非凡さ故か、秦漢の統一時代に入り急速に衰退。ついには絶滅に至る。2016/04/23
山陰 柴
4
墨子の本2冊目。森三樹三郎氏の訳はわかりやすい。墨子は古代中国の孔子没後に登場した。封建諸国間の戦国時代は諸子百家が多く登場する。フリーランスな彼らは諸国間に政治、経済政策を提示して採用を求めて行くコンサルタントだと、氏は説く。結果的には儒墨派のしのぎ合いは統一された秦漢という中央集権帝国の枠くみの中で墨子家の思想は生き残れなかった。墨子派の初期の文章は弟子へ意意思統一に天、明鬼という神さんを祭る事と儒教の批判論。隣人を愛し万民のための政治実現を掲げ当時の世界の戦争反対、平和を主張したことは驚きだ。 2023/10/13
有沢翔治@文芸同人誌配布中
4
宮城谷昌光の短編集『玉人』に出ていたので、興味を持ちました。建築技術者集団だったようで、理系っぽい要素が随所に垣間見えました。例えば「何のために音楽を奏でるのか」と儒家へ尋ねるのですが、「楽しむために音楽を演奏しています」という答えに満足しません。同語反復だとして退けています。2017/04/04