内容説明
遠くヨーロッパ中世、市井の人びとは何を思い、どのように暮らしていたのだろうか。本書から聞こえてくるのは、たとえば石、星、橋、暦、鐘、あるいは驢馬、狼など、人びとの日常生活をとりまく具体的な“もの”との間にかわされた交感の遠いこだまである。兄弟団、賎民、ユダヤ人、煙突掃除人など被差別者へ向けられた著者の温かい眼差しを通して見えてくるのは、彼らの間の強い絆である。「民衆史を中心に据えた社会史」探究の軌跡は、私たちの社会を照らし出す鏡ともなっている。ヨーロッパ中世史研究の泰斗が遺した、珠玉の論集。
目次
1 中世のくらし(私の旅 中世の旅;石をめぐる中世の人々;中世の星の下で ほか)
2 人と人を結ぶ絆(現代に生きる中世市民意識;ブルーマンデーの起源について;中世賎民身分の成立について ほか)
3 歴史学を支えるもの(ひとつの言葉;文化の底流にあるもの;知的探究の喜びとわが国の学問 ほか)
著者等紹介
阿部謹也[アベキンヤ]
1935年、東京に生まれる。1963年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。小樽商科大学教授、一橋大学教授、一橋大学学長、共立女子大学学長などを歴任。2006年9月没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ハチアカデミー
14
様々な媒体に発表した短いエセーの集成。だが、その短文のひとつひとつは、一冊の本できるだけの深淵が見える。橋、靴、ビールなど身近なモノから歴史・社会をみる視点が面白いのだが、「カテドラルの世界」のように、その広がり方も凄い。「動物」を扱った論考も印象深い。「オイレンシュピゲールと驢馬」「人間狼の伝説」の二編は、都市が形作られ社会が形成されることによって、人々の価値観が変わり、動物へのまなざしも変化していく過程が鮮やかに記される。「歴史学」という学問そのものへの厳しいまなざしも感じる読み応えのある一冊でした。2014/12/05
彬
10
中世ドイツの庶民の生活を描写してくれる良書。庶民生活を調べようと思うと日本語だと少ないし表面さらりで終わってしまうのが多いのに、歴史だけでなく人との関わりに興味を持っているからこその突っ込み具合がとてもありがたい。ただこの本は複数の論文を一冊にまとめているものなので内容の重複があったり、題材が変わったりとまとまりはあんまりない。後半は阿部さんの研究者としての立場から意見するものがまとまっていた。ここに彼個人の思想が見えたのは筆者をより身近に感じられてよし。やっぱり内容は被ってるんだけどね…2012/07/20
てら
8
1970年代から80年前後までの時期に阿部謹也があちこちに寄せた文章をまとめた一冊。後に「世間」を問うた著者の根本的な問題意識がすでに明確に表れています。「私は歴史学を人間の尊厳を確かめてゆく学問のひとつだと考えている」「どんな学問も人間とは何かという問いに生き、人間の尊厳を確かめようとするものである」。 阿部謹也は一橋大学の学長まで勤めながら、きわめて誠実でごまかしを許さない真摯な学者でした。2006年、人工透析の最中に心臓発作で死去。71歳。このような学者が再び日本に現れるときが来るでしょうか。2016/04/26
おりひら
5
中世ヨーロッパというより、中世ドイツを中心に庶民の生活や思考、趣向を描いている。また庶民だけでなく、その外側にいる人々へも目を向けている。この今まで、光を当てられない人々から歴史を見つめ直すことにより、今も抱えている人類の営みの問題が、どこに根差すものなのか?形成されるのか?を浮かび上がらせられるのではないかと思わせる。また、現状(著作当時)の歴史学の姿勢に問いかけている。そこを抜きにして、中世の庶民生活を垣間見ることが出来て面白かった。2018/12/30
本とフルート
4
主に中世ドイツに焦点を当て、庶民の暮らしをありありと描く一冊。様々な角度から浮かび上がってくる歴史に名を残さない人々の生活は、今も昔も変わらない人の在り方を教えてくれる。宗教の信仰を捨て、科学と理性の信仰にすがりつく現代人は、どこに向かっていくのだろう。2022/08/19