内容説明
日本の農村の原風景ともいわれる「里山」は、農地と山が近接する日本ならではの風景である。そこでは農用林として、人の暮らしともりやはやしが共存していた。失われかけている人と自然とのきずなを取り戻すきっかけとして、それを見直してみようという思いをこめて本書の著者が造った語が「里山」であった。里山は、自然とヒトとの微妙なバランスの上に成り立っている。古人は経験的にそのことを知っていたが、いまでは森林生態学の研究成果でより合理的に知ることができる。森林と長く深くまじわり、豊かな学識をたたえた森の学者による、さりげなくも滋味あふれるエッセイ。
目次
もりやはやし
車窓の風景
食物採取の場
キノコ狩
マツとマツ林
狩人
毛皮と木の皮
木材生産の場
森林の変遷
世界最高の森林
木の実の旅
外来の樹種
長寿の木
スギの木
北山スギ
サシキとツギキ
アスナロ
タケとササ
庭木と果樹
森と動物たち
山火事
治山治水
土の中の生物
町の小鳥
宮の森
自然保護
著者等紹介
四手井綱英[シデイツナヒデ]
1911年京都生まれ。京都大学農学部林学科卒業。秋田営林局、山林局本省、林業試験場などの現場を経て京大教授。専攻は森林生態学。京都大学名誉教授。退官後、日本モンキーセンター所長、京都府立大学学長も務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
27
里山という概念は、著者・四手井綱英(1911-2009)により広まったもの。京都を本拠にして、世界を視野に入れた森林学のエッセイ。大原女、磨き丸太、アカマツ林、タケノコなど、京都の自然にかかわる記述にページの多くが割かれていて、観光ガイドにない京都案内とでも言えそうな、実にほっこりとさせられる文である。意外かもしれないが、自然が戻ってきたように錯覚していても、実は破壊がすすんだ結果を見ている場合があるということを、著者は自然のシステム全体をみて警告している。著述から40年。現在や未来の自然が心配である。2015/07/12
NагΑ Насy
7
ずいぶんと詳しいことが予備知識なく読めて、しかも興味を引きつける文章を書く人だった。峰・中腹・谷間、それぞれにあった木を植える林業のこと。スギの群生林、秋田などに江戸時代の藩政で保護されてあった樹齢の高いものが軍資として伐採されたこと。ツギキやサシキの無性繁殖、雪国の木が雪の圧力から逃れるために若木のときに地を匍匐(ほふく)することで分化した種類、ユキツバキなど。2014/07/02