内容説明
二十三歳で、明治天皇制国家の本質を暴き、鋭く批判した大著『国体論及び純正社会主義』を発表して識者を震撼させた北一輝。のち『日本改造法案大綱』を著して、二・二六事件を引き起こす青年将校運動の黒幕と目され刑死する。以来、北に対する評価は毀誉褒貶あい半ばする。はたして、北一輝とは何者なのか。本書は、多くの北一輝論とは違い、「日本コミューン主義者」として第二維新革命のテーマにもっとも近代的、かつもっともよくできた解を提出した思想家ととらえ、この近代日本最大の政治思想家の真実像を描いた、夙に名著の誉れ高い労作。第33回毎日出版文化賞受賞作品。
目次
佐渡
早熟の魔
貧と戦闘の運命
詩と性愛と大義と
人類史総括の思想
天皇制止揚の回廊
第二革命の論理
西郷党の落し子
中国革命の虹
革命帝国の幻影
擬ファシストへの道
順逆不二の法門
著者等紹介
渡辺京二[ワタナベキョウジ]
1930年、京都市生まれ。法政大学社会学部卒業。河合文化教育研究所特別研究員。評論家。日本近世・近代史に関する多くの著書がある。主要な著作に、『逝きし世の面影』(葦書房1998、和辻哲郎文化賞受賞・平凡社2005)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
26
本人が自分のことについて殆ど書き残していない場合、その評伝には著者の思想が二重写しになることが多いが、本書はその典型だろう。弱冠23歳でものした『国体論及び純正社会主義』の読み解きが中心で、コミューンを軸にした社会主義論への高い評価は、著者の思想とのシンクロがあると思う。著者自体に興味を持った。北は大陸浪人として辛亥革命にかかわり、最後は様々な手法で財界から金をせびっては豪勢な暮らしをし、食客たちに小遣いを与えていたという。そこには当時の農村の悲惨な暮らしとの繋がりは見えず、ここに彼の革命の限界を感じた。2018/02/27
おたま
10
北一輝といえば、2.26事件の思想的な支柱、扇動者ぐらいとしか思っていなかった。しかし、渡辺京二の描く北一輝はそうした常識的な北一輝像を突き崩し、再構築する。『国体論及び純正社会主義』執筆にいたるまでの北の歩み、そして、その書物の言わんとするところを正確に捉えていく。渡辺京二の読みによって蘇った北の上記著書は、同時代の誰も到達しなかったような、根底的で、急進的な書物として現れる。自由民権運動の地平をも超えて、それは戦後の変革を先取りしているかのようだ。残念なのは北があまりに時代に先駆けてしまったこと。2019/09/18
tharaud
7
北一輝を西郷隆盛から連なる日本コミューン主義最大の理論家と位置づける評伝。文体の冴えといい、啖呵の切れ味といい、怜悧な読みといいさすがのものだが、それでも底が見通せない北一輝という人も物凄い。北の思想の核心部分には「近世村落共同体からいきなり資本制市民社会のただなかに引き出されたわが国の基層民の、市民社会的論理に対する恐怖と嫌悪」が折り込まれていたとする一文を読むとき、ファシズムと自分との間に細い糸がうっすら浮かぶのに気づかずにいられない。2022/11/14
greenman
6
北一輝は、国家社会主義者・天皇崇拝者として世の中に知られている。ぼくも本書を読むまでそう思っていたけれど、その実態はもっと錯綜している。まず北は本質として個人主義者であり、天皇に対して天皇機関論のような見方をしていたことを知らなかった。さらに北の思想が、ヘーゲル-マルクスの流れをくんだ弁証法による史的観念論とかなり一致していているにもかかわらず、マルクス主義とは一線を画していて独自のものだった。しかし北の第二革命が達成し、東洋的共和制を打ち立てたとしても、その実態は共和制という名の専制に陥っただろう。2011/07/11
chanvesa
5
『国体論及び純正社会主義』が北のピークであったろう。渡辺京二氏の筆致も、北が中国に渡ってから刑死する本書の後半が前半と比べると気のせいか見放したような感じがする。もちろん北の本質に迫ろうと言う力強さは根底にある。『維新の夢』で述べられていた西郷以来の日本コミューン主義について、北の思想がさらに深まった議論になっており、スリリングな本であった。松本健一や松本清張の北一輝論への批判は徹底した鋭さがあり、本書には「毒」があると思う。それが魅力でもあり、ある意味「魔王」的である。2013/04/14