内容説明
9.11以後、アメリカの思想は変貌してしまったのか。ピルグリム・ファーザーズから現代まで、弛まず築き上げられてきたアメリカの伝統思想は、さまざまな人種の移民により形成されてきた社会ゆえに、一つの原理によって統一する一元論ではなく、相互に違った価値観を認めあう多元主義であった。それは、「体系を排すること、眼前の事実を重視すること、物事の理由を権威にたよらず独力で探求し、結果をめざして前身すること、定式をとおして物事の本質を見ぬく」プラグマティズムである。パース、ジェイムズ、ミード、デューイ、モリス、ローティーなど、その思想の展開とこれからの可能性を探る。
目次
現代アメリカ思想の背景
プラグマティズムの登場
パースの「探求」と真理
パースと記号論
パースの「アブダクション」と可謬主義
ジェイムズと真理
ジェイムズと宗教
ジェイムズの「純粋経験」と多元論
ミードの「社会的行動主義」と言語論
ミードと自我論
デューイの「道具主義」と教育論
デューイと真理と宗教
デューイと善と美
モリスの思想とクワインの思想
ローティーのプラグマティズム―全体をふりかえって
著者等紹介
魚津郁夫[ウオズイクオ]
1931年、和歌山県に生まれる。東京大学文学部哲学科卒業。熊本大学文学部教授、ハーヴァード大学客員研究員、放送大学熊本学習センター所長、崇城大学教授を経て、熊本大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きいち
19
頭の中の空いてるスキ間にちょうどいいピースがピシピシと入っていくような、小気味イイ教科書。経験論にせよ構造主義の記号論にせよ、他との距離感は自分でこれまでうまく掴めなかったので、ベースにできるのはありがたいた。◇さらに、ローティを発展させて語られる、自分が間違ってる可能性を常に弁えることで、他者の論理や意義を認め、共通の土台を作って少しずつ前へ…というプラグマティズムの現代的な意義。さて、この姿勢を、あの「反知性主義」のヤカラたちにも活用し、結果を出すことができるか。僕ら自身の深みが、まさに問われている。2014/03/05
りょうみや
17
プラグマティズムに含まれているとされる思想家たちの概要を噛み砕いて並べていった内容。パースが特に詳しい。プラグマティズムとは関係なさそうに思えるミードもなぜか入っている。分かりやすく書かれているが、一人の思想家のプラグマティズムとは関係の薄い作品まで触れられているため、まとまっていない印象がある。また、それぞれの思想家の繋がり、影響について軽く書かれているが、もっと触れてほしかった。2020/08/24
またの名
14
仏教的要素、ディオニュソス的要素、プロメテウス的要素がどのように配分されてるかによって七つの人格類型を示したモリスは、全要素が完璧に備わった人生を離脱しかつ人生に執着するマイトレーヤー(弥勒菩薩)型を理想に設定。神聖なオーバーソウル(大霊)が各人に命を吹き込んだと考えるエマソン等の宗教思想と並べてみると、役に立つならある信仰を承認するしそうでなければ承認しないというジェイムズの一節で有名な米国哲学の異様な一断面が見えてくる。代表的論者がうまく要約されてる一方で、明確に反実在論を打ち出すローティには冷やか。2016/05/22
呼戯人
13
正統的なプラグマティズムの紹介書。最近の業績については触れられていないが、パース、ジェイムズ、ミード、デューイ、については非常に詳しく丁寧な紹介がなされている。伊藤邦武は、ジェイムズを生の哲学に組み込んでいるが、私は広い意味の生の哲学にプラグマティズムを組み込んでもよいのではないかと思っている。ニーチェやベルクソンとの親縁性は特にその真理概念については明らかであるし、近代のデカルトからヘーゲルまでの意識の哲学とは明らかに拠って立つパラダイムが異なるように思える。次代を切り開く基礎になる思想だと思っている。2016/01/31
SGM
10
★★☆ほかの資料(前提となる知識)がないと理解が難しいところもある。初学者向きではないように思う。しかし、引用文献をきちんと記載して書かれており有用であると思う。プラグマティズムといってもパース、ジェイムズ、デューイなどによって、定義が異なっており興味深かった。疑念→思考→信念→行動→疑念→思考→・・・という探究の過程は、論理療法につながるところもあり(そもそも論理療法にはプラグマティズムの概念が含まれているので当然なのだけど)、学びになった。2018/10/30