内容説明
女性として僧侶の愛を受ける稚児たち、美女とされる京女、出産がもとで死亡し幽霊になる女、男の欲望をむけられて鬼神と化す羅刹女―、それら虚実の群像の背後には、日本人のセックス/ジェンダー意識の古層が隠されている。平家物語や今昔物語、女性文学など、中世説話文学から民俗信仰までをフィールドに、歴史に潜んでいる性愛、権力、神仏信仰などを、縦横無尽に切り捌いた論文集。
目次
第1章 中世の性愛と稲荷信仰(「稚児」と僧侶の恋愛―中世「男色」のセックスとジェンダー;中世王権と稲荷の「愛法」―稲荷行者と性器の呪術信仰 ほか)
第2章 歴史の中の「女性神話」の誕生(出産と「聖なる女」神話をめぐって;作られた美女神話―「東男に京女」考 ほか)
第3章 神仏と女神の世界(女神の図像学―母なる神と死の神;渡来する神と土着する神―中世人と神仏の交感する世界)
第4章 中世の女と物語文学(中世王権と女性文学の盛衰;ある女盗人の物語―『今昔物語集』巻二九より ほか)
著者等紹介
田中貴子[タナカタカコ]
1960年京都府生まれ。奈良女子大学文学部卒業。広島大学大学院博士課程修了。博士(日本文学)。現在京都精華大学人文学部助教授。専攻は中世国文学、中世宗教文化
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
26
同じゼミの子と大学の図書館でお勧めの学芸文庫を教え合ったところ、その子からお勧めされた本です。両性具有としての神聖的存在といての稚児から見る象徴、「平家物語」から見る活動的な女性たち、髪の効果など、女性性(?)に纏わる要素についての考察。また、女性の時代や社会におけるジェンダー論の変遷も同時に浮き上がらせている。2013/05/17
fseigojp
22
中世における性愛側面の論考 女性らしい緻密な議論2017/05/19
shinobu
4
日本の中世時代における男女をめぐるジェンダー論。稚児や女性の神、文学や民話における女性の描かれ方などについての考察が収録されている。今まで考えたことがないような指摘も多く、興味深く読んだ。武士の時代を境に、女性の地位が変わったことは何かで読んだが、仏教の教えも大きく影響を与えていそうだ。もっと類似書を読んでみたい。2023/03/25
水色。
3
非常に読みやすい、オムニバス篇というのが相応しい趣。セックスとジェンダーは独立しうるものであり、因果も持たないものである。それ故に男女の二元的な分類では説明しえない稚児のような存在があるという見方は興味深い。両性具有的な存在に混沌とした霊力を認め畏怖するのは各地で見られる深層的/普遍的な見方なのだろうか。解説の箇所でBLと結び付けられて話を展開していた部分があったのは驚きである。2011/02/08
紫暗
3
性愛というタイトルと合致している内容はおそらく第一章の稚児愛についての部分だけではないかと思います。あとは聖女や女神についての考察が多く、どちらかといえばジェンダーとしての女性をとらえようとしている本だと感じました。女性ばかりが幽霊になって人をたたりがちだと思われているが、実際にはそうではないといった話はなかなか面白かったです。同著者の他の本と内容が重複している個所もありますので、そちらを読んでいる人には物足りないかもしれません。2011/02/02