内容説明
悠久の時間と広大な自然に育まれたインド神話の世界を原典から平易に再現した紹介書。ヴェーダ聖典中の神々と神話から始まり、大叙事詩『マハーバーラタ』を中心として重要な神話を選び出し、他の伝承と比較することにより、有名なインド神話を可能な限り網羅した。不死の霊水アムリタ(甘露)を手に入れるため、神々と悪魔たちとが協力し、マンダラ山を棒にして大海を攪拌する「乳海攪拌」の神話、雨を降らせるため天女が仙人を誘惑する「一角仙人伝説」、猪・人獅子・朱儒・ラーマ・クリシュナなどに化身して、悪魔と闘うものたちを助ける「ヴィシュヌの十化身」、最も崇拝を集めるクリシュナの偉業に関する伝説などを含む。
目次
第1章 ヴェーダの神話(ヴェーダ文献について;リグ・ヴェーダの神々 ほか)
第2章 叙事詩の神話(大海の攪拌と甘露;竜を食うガルダ鳥 ほか)
第3章 ヴィシュヌ神話(梵天がヴィシュヌの臍から生じたこと;北極星となったドゥルヴァ ほか)
第4章 クリシュナ伝説(ヴィシュヌ神の降臨;クリシュナの誕生 ほか)
著者等紹介
上村勝彦[カミムラカツヒコ]
1944年、東京に生まれる。1967年、東京大学文学部卒業。1970年、同大学院人文科学研究科(印度哲学)修士課程修了。サンスクリット詩学専攻。東京大学東洋文化研究所教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaori
44
単純に神話に興味が出てきたので、とりあえずと手にした1冊だったが思いの外苦戦した。神様1人に対しての個別名称が複数ありすぎて、本文索引本文の往復が何度あったことか(笑)しかし物語としては抜群に面白かった!神話はギリシア、ローマぐらいしか知識がないとはいえ、神々の人間臭さ俗っぽさは理解してたつもりだが、インド神話は予想の遥か上。神様って泰然自若としてそうなイメージなのにな。本来カーストの、特にバラモンの地位を磐石とするため変遷されてきた物語だけど、続きます→2015/04/08
イプシロン
42
インド神話は政祭一致の色合いがとても強いと思えた。その理由は、バラモンの権威を維持するためであり、経典や叙事詩の主人公(神)が逐次的に変わってゆくのは、大衆人気に応えるためだったのだろう。神々の性向は勧善懲悪性がとても強く、読んでいると「殺した、殺した、殺した……」の連続で、ちょっと呆れた。そのような発展をしたので、哲学面はウパニシャッドで停滞し、プラトン、アリストテレス的な学問的展開に至らなかったのかもしれない。しかしそうした傾向が多様な物語を生みだし、それが様々な翻案を生む源泉となったのだろう。2019/04/19
❁Lei❁
30
突然にインド神話への興味関心が高まり、長い時間をかけて読了。あまりに多くの神々や伝承があり複雑だったが、本書の読みやすさに助けられた。資料の写真も載っていて、よりインドの世界を感じられた。深く追求しようとすれば本書では足りないが、インド神話の基礎を学ぶには充分な内容で満足だった。特に印象深かったのはバラモンの優位性、苦行の重要性、ヴィシュヌ信仰の広さだった。インドの生活の基盤となる宗教観を神話を通じて知ることはとても興味深く、他の神話と比較するのも面白そうだと思った。2020/02/06
Kei
18
以前にインドに行ったが、これほどカオスな国はないという印象だった。それを少しでもわかるようにと勉強を少ししているが、まだまだ謎でこの神話についても神々がどのような関係にあるのか、イマイチ図としてイメージが出来ていない。これからも様々な関連書籍を読んで、このカオスさを解明したい。2016/06/28
N島
17
世界創世からクリシュナ伝説まで、インド神話の主要なエピソードを集めた一冊。原典による物語の相違点や、エピソードが定着するまでの流れなど、丁寧かつ簡潔にまとめられています。膨大な量の原典を読み解き、ここまでコンパクトにまとめ上げた作者の労力に脱帽いたします。インドの精神文化を探る足掛かりとなり得る良書であることは間違いありません。ヒンドゥーナショナリズムに傾きつつある今のインドを理解するのに、旬な一冊とも言えるのではないでしょうか?2019/11/27