出版社内容情報
当時の貧民街のルポは他にも、松原岩五郎『最暗黒の東京』(岩波文庫五〇〇円)などいくつかあるが、そういった資料をまとめて書いた紀田順一郎『東京の下層社会』(ちくま学芸文庫九五〇円)がよくできている。横山のことを知りたければ、手っ取り早くこれを見るとよい.....。(立花隆『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』364頁、より)
内容説明
駆け足の近代化と富国強兵を国是とする日本の近代は、必然的に社会経済的な弱者―極貧階層を生み出した。しかし、多くの日本人はそれを形式的な慈善の対象として認識するのがせいぜいで、社会的存在として見据えようとせず、本質的には彼らを「落伍者」「怠け者」として切り捨ててきた。スラムの惨状、もらい子殺し、娼妓に対する恐るべき搾取、女工の凄惨な労働と虐待…。張りぼての繁栄の陰で、疎外され、忘れ去られた都市の下層民たちの実態を探り、いまなお日本人の意識の根底にある弱者への認識の未熟さと社会観のゆがみを焙り出す。
目次
最暗黒の東京探訪記
人間生活最後の墜落
東京残飯地帯ルポ
流民の都市
暗渠からの泣き声
娼婦脱出記
帝都魔窟物語
糸を紡ぐ「籠の鳥」たち
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
橘
22
職場の先輩からお借りしました。資料として読んでいたのですが、ついこの間まで日本はこんな感じだったのだなぁ…と驚くことしきりです。今も、労働力は使い捨てみたいなところもありますが、この頃はもっとひどく、寧ろ人間扱いされてないです。前半はまだどうにか、でしたが、もらい子殺しくらいから辛く、娼婦・私娼・女工はしんどかったです。夢に見ました。働いても働いても楽にならない。搾取される生。福祉についてはまだまだ充分でない気がしました。表から見えなければいいのか…ううむ。2019/05/19
やまやま
18
いわゆる「貧困ビジネス」は現在においても連綿と続いている「より弱いものを」搾取する手法であるが、それは過去からの繰り返しである。本書からは明治期から昭和初期における都市底辺生活者の実態を詳細に読み取ることができるが、その原因を考えると実に暗澹たる気持ちになるのは他の皆さんの評と同様である。このような貧困に直接見分の機会が乏しかった自分としては、想像力を働かせて、といっても限界があることをわきまえて、貧困の問題を考える必要を感じている。本音で言えば、現在の貧困をどう捉えるか、難しい問題でありましょう。2021/05/04
ATS
17
福祉機能がないと人間的な生活がいかに破綻するのかよくわかった。日本政府が表面的な対策しかしなかったのは昔から相変わらずなのだなぁと(最近でも性風俗業の人にコロナ給付金は払わないという差別が行われた)。山本周五郎の『季節のない街』はスラムのような街での実体験をもとに書かれたのであろうがそれを想起させた。スラムについてはこの動画を見るとイメージしやすい(→ https://youtu.be/cHry5vBkHs4 )。吉原遊廓から脱出した森光子の話や女工たちの生活など本当に悲惨すぎて心が痛んだ。2022/08/01
bluemint
17
よくぞ書いてくれた。忘れられた夥しい資料を整理して、我々にも読める形にしてくれたことに感謝する。この悲惨という言葉だけでは言い尽くせない歴史に、どう気持ちを整理をすれば良いのかわからない。明治の初期でも、悲惨な現実を記録して広く伝えようとした人々がいて、救おうとした人々がいたことに少し救われる。決して少数ではないこれらの人々に対し、普通の人はただの風景にしか見ていない。無一文で病気でも保護してくれ、人並みな生活を保証してくれる現代は何て有難いのだろう。2020/09/08
くらひで
12
明治以降の東京の最貧民層の生活の実態について取り上げた文献を整理したもの。社会保障という観念が未熟なまま、富国強兵と資本主義的競争原理だけが先行した結果、階層の二極分化と都市による地方の搾取が横行。スラム、娼妓、女工などの極貧層の生活の生々しいまでの悲惨さがリアルに書かれていて、少々滅入る。しかし、その見たくない現実を無視してきたことの近現代社会の歪みこそが今なお現存する問題であり、貧困に対する社会的認識の未熟さと前時代的な人間観の歪みに警鐘を鳴らしている。2015/11/30