内容説明
文学研究につねに新領野を切り開き、新たな方法を提示しつづけた著者による、オリジナルにして周到な文学入門。漱石『草枕』、鴎外『雁』、芥川『羅生門』、古井由吉『円陣を組む女たち』などの作品から新鮮な読みの可能性をひきだし、文学テクストが約束する〈読書のユートピア〉へと読者を誘なう。
目次
第1章 読書のユートピア
第2章 書くことと語ること
第3章 言葉と身体
第4章 コードとコンテクスト
第5章 物語の構造
増補 1970年の文学状況―古井由吉「円陣を組む女たち」をめぐって
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
52
本書を読んでいると、これまで平面的行為と思っていた読書がまるで立体的に立ち昇ってくるかの様に感じてしまう。遺構というのもあって散漫としている感は否めず、後半の議論は参照される作品の内容理解ありきのものという困難さはあるのだが、それを補って余りある発見のある内容だった。身体から立ち昇る言葉というものに、身体を経由して出会おうとすること。読むことの可能性に自覚的になることで、意味が持つ生真面目さから軽やかに離れ、戯れることを肯定すること。それは堅苦しいものではなく、とても優しいことだと心から思うのです。2014/12/16
harass
20
題名は知っていたが古本で中を見ないで購入。読書中にもやもや感を持っていたが、最後に編集者の文があって著者死去のため未完とのことで納得した。語りおろしの章もあるようで軽く読みやすいところもあるが、期待していたものと違っていて物足りなかった。論理展開に疑問を感じる箇所が多かった。文芸批評本の準備体操としてなら許せるがその割に前提とする知識の説明が少ないので他の本で補わないといけない。日本文学作品、人情本などの話が興味深かったが、勝手に期待しすぎで読書をするものではないなと反省。2014/02/13
ラウリスタ~
18
小説の「筋」のみを楽しむ「素人的」読みをバカにする、明治の書生特有の「つまみ食い読み」(いや、結局のところ外国語力が不足していたというだけのことの気もするが)から始まる、「小説の筋」論争(谷崎vs芥川、筋派vsなし派)。プロットとストーリーの違いが前田が死の直前にこだわっていたことらしいが、途中で切れているのがなんとも。漱石の「プロットもなければ事件もない」「絵画」のような小説と聞くと、自然主義への対抗策として考えるようなものはみんな一緒なのだなと思ったり。2016/07/28
ノブヲ
17
「小説」ってなんだろうね。小説という言葉を聞いただけで、そこに善良なロマンのようなものを感じずにはいられないが、もしかしたらそうした感覚もすでに旧来のものかもしれない。著者の前田愛は、「男性ですか?女性ですか?」といった疑問がすぐに浮かぶほどに、その名前は世間にそう流通しているように思わないが、それでも常に読者に寄り添おうとする彼の言葉は、刺激的でいてわかりやすく、「チチチチッ、ボンッ!」といったコンロに火のつく感じで、たとえば「ビーチャムの生涯」や「S/Z」などをすぐにでも読んでみたいと思わせてくれる。2023/11/18
スミス市松
17
増補や解説を含め250ページにも満たないが大変充実した内容である。『草枕』の引用から始まる読書論や身体と言葉から立ちあがる述語的統合と錯綜体、旧来の文学コードからコンテクストや間テクスト性、テクストの空白という比較的新しいコードへ、さらにはイーザーの読書論へ展開していく論旨は特に鮮やかだった。第五章ではストーリイとプロットの違いをプレテクストとテクストの関係と相同させ、物語のコードやテクストの空白などそれまでに扱った概念を援用しながら〈最小の物語〉のメタ的効用へと展開するかというところで未完になっている。2011/08/30