出版社内容情報
生きることに苦しみ、孤独と憂愁の淵で深くへりくだる懺悔者キェルケゴール。直向きな信仰と思索のあいだに立ち上がった〈実存哲学〉という企ての全体像に迫る。
内容説明
キリスト教国家デンマークに生まれ、いまなお哲学史にその名を刻むセーレン・キェルケゴール。母や兄弟との死別、厳格な父との葛藤、放蕩、婚約者との破局―。不憫な日々を過ごした青年は、孤独と憂愁の淵で深くへりくだる。その愚直な信仰と思索のあいだに立ち上がった“実存哲学”とはいかなる企てだったのか。『死に至る病』『不安の概念』などの代表作のみならず、残された膨大な日記や手紙を読み解き、“神に仕えるスパイ”という使命を生きた人間キェルケゴールの実像にせまる。
目次
序章 神に仕えるスパイ
第1章 原点
第2章 著作家として立つ
第3章 美的著作という餌をまく
第4章 美的著作
第5章 宗教的著作と『非学問的後書き』
第6章 逡巡
第7章 汝自身を知れ
第8章 牙を研ぐ
第9章 教会闘争
終章 死とその後
著者等紹介
鈴木祐丞[スズキユウスケ]
1978年生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科哲学・思想専攻修了。博士(文学)。専門は実存哲学。現在、秋田県立大学総合科学教育研究センター助教(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buuupuuu
28
キェルケゴールを一種の活動家として、各著作もその観点から位置付けて解説する。また、晩年の教会闘争についてページを多く割いている。キリスト教思想は、人間を永遠的なものと対比された時間的な存在として捉え、しばしばその境遇の悲惨さを言い立てる。その上で神の愛に向き合うことの難しさを強調するところに、キェルケゴールの特徴があるのかもしれない。ソクラテスからの影響が興味深い。行いや生き方へ繋がる主体的思考こそが肝要であること、そしてそれを伝えるためには対話相手の自発性を助ける黒子に徹する必要があることなどである。2024/02/12
Ex libris 毒餃子
18
思想と人生の両方を解説した本。実存を神の相における現実における存在のあり方と定義しているおかげでキェルケゴールの思想がクリアになりました。個人的にキェルケゴールがいまいちピンと来ない原因としてキリスト教的世界観を通しての哲学のため、キリスト教の考え方を深く理解しないとキェルケゴールの考えがわからない。しかし、本書を通じてよすがとなる筆致があったので、今後はわかりやすくなったと思います。2024/01/21
はたえす
8
「死に至る病、それは絶望である」のフレーズくらいしか知らなかったので手に取ってみた。キェルケゴールの生涯とその著作から思想を読み解くような内容になっていた。晩年は教会の権威と対立することになるが、今なお神の名を笠に着て好き勝手する連中がいることに信仰するとはなんなのか考えたりした。(本書にも名前が出てくるマルクス・ガブリエルがイスラエル支持なのがなんとも)ただ、キェルケゴール自体の苦悩と孤独に満ちた人生のほとんどは父親の呪縛のせいみたいな物なので、なんかかわいそう人だなぁと思って読むのがつらかった。2024/02/27
fuku0
7
神のスパイとしてのキルケゴールの生涯と思想を描いた入門書。主要著書の概説に留まらず、日記等の資料から再現したキルケゴールのその当時の構想や問題意識との関係で著書や思想を解説しているので、一貫した物語としてキルケゴールの思想が見えてくる。限られた記述からも垣間見える一人の人間として懊悩する姿は悲壮の一言に尽きる。2024/01/22
ソーシャ
5
キェルケゴールの生涯と思想を「神に仕えるスパイ」として当時のデンマーク社会にキリスト教を再導入しようとしたという視点からコンパクトに解説した新書。彼に課されていた使命とそれによる苦悩、生涯の中での各著作の位置づけが解説されていて、この一冊で彼の全体像がわかるようになっています。あとがきもすごく印象に残りました。2024/02/25