出版社内容情報
なぜ昭和の日本は戦争へと向かったのか。社会や政治の変革を志向する人々と、それに対抗する人々とのせめぎ合いで生まれた諸思想を、最新研究に基づき解明する。
内容説明
「大正デモクラシー」から「ファシズム」・戦争へと移行した戦前昭和期は「国体」の再構築と「文明化」の超克がめざされた時代だった。大正期の民主化運動は衰退し、アジア回帰、国家総動員、文化主義は戦前昭和期にアジア進出、総力戦体制、日本主義・国体論へと展開。大正期の「文明化」との差異化が「転向」の時代をへて「近代の超克」へ推し進められていった。様々な思想がせめぎ合い、複雑に絡み合いつつ日本がいかに戦争へと向かい、戦争を遂行したかを最新研究に基づき検証する。
目次
多元的国家論とギルド社会主義
第二次日本共産党と福本イズム
講座派と労農派
恐慌と統制経済論
国家社会主義と満洲事変
転向
農本主義の時代
昭和の日本主義
国体明徴論
政治的変革の夢―維新・革新・革命
自由主義
反ファシズム人民戦線論
国家総動員論
戦時下のアジア解放論
京都学派の哲学
著者等紹介
山口輝臣[ヤマグチテルオミ]
1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。東京大学大学院博士課程修了。専門は日本近代史
福家崇洋[フケタカヒロ]
1977年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専門は近現代日本の社会運動史、思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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無重力蜜柑
13
ずっと積んでいたシリーズ。修論に向けてこの巻から読んでいく。各論を簡潔にまとめて参考文献まで紹介してくれるスタイルで、文献蒐集や初めの一歩としては優秀。当然ながら掘り下げは足りないので勉強が必要。戦前昭和といえば右翼の時代というイメージ。自分もそういう論点が気になって手に取った本だが、国粋主義/帝国主義/軍国主義の中にも左翼的な視点が、「転向」というよりは国家体制の「活用」という形で包摂されているのが面白い。この辺を客観的に研究できるのも、当事者が完全に亡くなっていくこれからのことになるのだろう。2023/08/22
くまくま
4
「転向」「国家総動員論」などこの時代を色濃く表す15のテーマ。それぞれ濃密で聞き慣れない項目もあり、なかなか時間がかかってしまった。国家総動員というと同法を利用した軍部の暴走が第一にイメージされるが、むしろ軍需と産業のバランスから軍を統制するために誕生したというのは意外だった。2023/02/02
onepei
2
意外に多様性があるのを知ったのが収穫か2023/02/26
掬水
1
座談会「近代の超克」に参加した下村寅太郎が他の多くの論者を「近代」を他人から与えられたものとみなし、故に自らにそれを担う責任はないから単純に日本的なるものに復帰すれば問題は解決すると考えていると批判した上で超然とした態度を取るのではなく自らも「近代」に生きているということを自覚するように促しているのは、この集団にあっては貴重な存在であったのだろうと第15講京都学派の哲学を読んで思いました。2023/07/23
つじー
1
思想から昭和史を読み解くと、事実を追うだけではわからない発見だらけ。知的興奮がドバドバ。僕が興味持ったテーマは「講座派と労農派」、「転向」、「自由主義」、「国家総動員論」、「女性動員論」あたりかな。河合栄治郎、石橋湛山、清沢洌といった戦前日本の著名リベラリストの思想の源流がクラークを中心とした札幌バンドにあったという話が個人的な大発見で興奮した。北海道民が思っている以上にクラークという存在は日本にとって非常に偉大だったのかもしれない。2023/03/01