出版社内容情報
学校は格差再生産装置であり、遺伝・環境論争は階級闘争だ。近代が平等を掲げる裏には何が隠されているのか。格差論の誤解を撃ち、真の問いを突きつける。
内容説明
格差の問題を前にして、我々はいったい何を求めているのか。人々を選別する“能力”とは何か―。学校は格差再生産装置であり、遺伝・環境論争の正体は階級闘争だ。だが、メリトクラシーの欺瞞を暴いても格差問題は解けない。格差は絶対になくならないだけでなく、減れば減るほど人間を苦しめる。平等とは何か。平等は近代の袋小路を隠すために我々の目を引きつける囮であり、擬似問題にすぎない。世に流布する議論の誤解を撃ち、真の問いを突きつける、著者最後の虚構論。
目次
序章 格差の何が問題なのか
第1章 学校制度の隠された機能
第2章 遺伝・環境論争の正体
第3章 行動遺伝学の実像
第4章 平等の蜃気楼
第5章 格差の存在理由
第6章 人の絆
第7章 主体という虚構
終章 偶然が運ぶ希望
著者等紹介
小坂井敏晶[コザカイトシアキ]
1956年愛知県生まれ。1994年フランス国立社会科学高等研究院修了。現在、パリ第八大学心理学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
75
「人間は他者との比較を通してアイデンティティを育む」、だから格差を望むのは人間の本性で、しかし「人間に本質的な違いがないとされる」近代では格差が生まれる仕組みをごまかし続けなければならないと作者は言う。そして近代以前の、階級・身分をアプリオリに保証する「神なる外部」を失った近代は、その根拠を個人に内在化させたことが示されます。主体や個人の能力等はそのための架空の概念だということを論証してゆく本書は、理想の社会を目指すのとはまた違った角度から世界の見方と変え方を示していて、大変スリリングな体験になりました。2025/02/07
アナクマ
35
7章_主体という虚構。「社会秩序を維持する術は…神にしがみつくか、自由意志にしがみつくか…他にない」。例えば犯罪の責任は誰かに引き受けてもらわねば社会的に収まりがつかないので、”自由意志によって犯罪を成した“ とみなされた者が処罰される。◉前章までに議論した「遺伝・環境・偶然という外因」が人間を作る、を受け入れるなら「どこを探しても内因は見つからない」。まとめると、① “能力”に自己責任はなく、それに因る格差は正当化されない。②しかし格差はなくならない(問題の本質は差異を生む”運動“である)。いざ終章へ。2022/08/26
アナクマ
35
1章_「格差」についての考察。メリトクラシー原理は、出身階層という足枷を逃れ自らの能力しだいで未来を切り開ける社会像を提案して歓迎された。しかし、機会均等で自由競争の結果もたらされた格差は受け入れるしかないという自己責任論につながり、本質的に負け組を突き放す思想だとし「不幸な目に遭った者は悪いことをしたに違いない」という因果応報論を問題視。そして「学校は学力差を拡大するが、そのメカニズムは隠され、学力差は生徒のせいにされる」ことを確認する。◉学力差と格差が等しく語られている気がするけど、続く。2021/12/09
チャーリブ
30
初読の人。タイトルがその内容を表している。議論は一見難解そうだが、その主旨は分かりやすい。ちまたにあふれる「格差論」は、格差をいかに解消すべきかといった「べき論」であって、そもそも格差が社会のシステムから生み出された虚構だという観点がないという議論が続く。虚構と言われてしまうと苦しんでいる人には身もふたもない。みんな「悪役」を知りたがっているのだから。一般受けしない本かもしれないが興味深い内容。希望は、「偶然の力」を信じるところから始まる。「あとがき」まで読むと著者が議論を弄ぶ人でないことが分かる。○2021/11/27
アナクマ
28
序章と終章だけ読んで勇み足の期待感メモ。◉過去作で民族も責任も虚構だと導出し、しかし「虚構のおかげで現実が生成される」と論じた著者。「格差も同じ欺瞞にまみれている」のだが「私の実存が抵抗した」。ここがいい。血が通っている。◉格差は厳然として有る。では例えば格差を説明しうる根拠「能力」とは何か。「格差問題自体を越え」るために、ピケティ、サンデル、ロールズなどを向こうに回し「この方向に解決はない」とぶち上げる。「格差は虚構」だが「不平等に怒」る著者がどこにたどり着くのだろう。スリリングな読書が三たび始まった。2021/11/30