出版社内容情報
私たちの「氏名」はいつできたのか? 明治政府が行った改革が、江戸時代の常識を破壊し大混乱を巻き起こす。気鋭の研究者が近世・近代移行期の実像を活写する。
内容説明
私たちが使う「氏名」の形は昔からの伝統だと思われがちだが、約一五〇年前、明治新政府によって創出されたものだ。その背景には幕府と朝廷との人名をめぐる認識の齟齬があった。江戸時代、人名には身分を表示する役割があったが、王政復古を機に予期せぬ形で大混乱の末に破綻。さらに新政府による場当たり的対応の果てに「氏名」が生まれ、それは国民管理のための道具へと変貌していく。気鋭の歴史研究者が、「氏名」誕生の歴史から、近世・近代移行期の実像を活写する。
目次
第一章 「名前」の一般常識
第二章 「名前」にあらざる「姓名」
第三章 古代を夢みる常識
第四章 揺らぐ常識
第五章 王政復古のはじまり
第六章 名を正した結末
第七章 「氏名」と国民管理
著者等紹介
尾脇秀和[オワキヒデカズ]
1983年京都府生まれ。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。現在、神戸大学経済経営研究所研究員、佛教大学非常勤講師。専門は日本近世史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
122
「江戸時代では「名前」と「姓名」は全く別のものである」ということに驚かされる。名前とは、親が名づけるものでも、一生に一つの掛替えのないものでもなかったという。それを、明治新政府が「姓名」を人名として利用しようと決めた歴史が詳細に綴られている。過渡的な状況や例外の記述も精緻であり、研究者としての著者の姿勢には頭が下がる。ただ、本テーマにさほど深い興味を持っているわけではない私には、ここまで詳しく説明してくれなくてもいいのにと、読みながら少し疲れた気分になったものだが、これは贅沢な悩みか…。2021/07/27
まーくん
119
本書で「氏名」の成立ちが判ると、より時代劇が面白くなるかも。知恵伊豆こと老中・松平伊豆守信綱が伊豆の領主でも何でもない事。遠山の金さんこと町奉行・遠山左衛門尉は金四郎であるが次男とか。氏名の仕組がこんなにも複雑であったとは。官位は職名に非ず名前の構成要素。朝廷の常識と武家を含む一般の常識はかけ離れていた。武家の官位は幕府の一存、朝廷は権力者のなすがまま。維新による権力移行で朝廷の常識が一時蘇るも、下級武士上がりの実力者達により無能な公家は排除され、明治初年の混乱を経て「氏名」は現在に続く”常識”の線に。2021/04/23
へくとぱすかる
80
本書の内容は、学校で教わったこともなく、今まで読んだ歴史の本にも出てこなかった。驚きでいっぱい、目からウロコが何枚落ちただろうか。江戸時代の人名が一見、現代と似ていても全然性格がちがっていた。大石内蔵助の「内蔵助」は個人名だが、大岡越前守の「越前守」は役職名かな、と何となく思っていたら、大間違いだったのである。そういう江戸期の説明だけでもびっくりだが、明治政府のわずか数年間の人名をめぐる変転は、もう混乱の極致。今のわたしたちの「氏名」はその混乱の果てに「誕生」したものだった! さて改めて、名前って何だ?2021/04/16
美東
54
労作である。キーワードは「名は体を表す」である。江戸時代の人名は、現代の我々からすると、はなはだ奇異というかややこしいが、江戸時代から続く芸能~歌舞伎などに、その伝統が残っている。たとえば藤間昭暁→松本金太郎→市川染五郎→松本幸四郎→松本白鸚といった具合に、身分や立場に応じて、名前が変わっていくので、先代のとか注釈つけないと個人を特定できない。江戸時代においては、「体」とは身分であり立場であった。明治維新後は「体」とは個人になる。明治の変革期に夏目漱石や森鴎外が近代的自我をテーマにした理由がよくわかる。2021/08/09
みこ
51
社会制度から一般生活まで様々な変革が行われた明治維新だが、人名に関する概念までもがこれほどまでに大きな変化を遂げていたと驚かされる。江戸時代を取り上げたドラマや小説は専ら武士の世界を描いたものばかりなので、公家と武家で名前の概念が違うことや、それ以外の一般庶民の名前については知らなかったことばかり。この時の明治政府内の混乱は井上ひさしの「国語元年」を思い出す。三谷幸喜が戯曲にしたら面白いものができそう。2021/05/27