出版社内容情報
私たちの人生を大きく左右する「運」。その是非をめぐる古代から現代までの議論をたどり、あるがままの人間の生のあり方を探る。
内容説明
我々がこの世界で何をなし、何を受け取るかは、「運」というものに大きく左右されている。しかし、あるべき行為や人生をめぐって議論が交わされるとき、なぜかこの「運」という要素は無視されがちだ。特にその傾向は、道徳や倫理について学問的な探究を行う倫理学に顕著である。それはいったいなぜだろうか。本書では、運が主に倫理学の歴史のなかでどう扱われ、どのように肯定や否定をされてきたのか、古代ギリシアから現代に至る人々の思索の軌跡を追う。そしてその先に、人間のあるがままの生をとらえる道筋を探る。
目次
第1部 「運」の意味を探る(現代における「運」;古代ギリシアの文学作品における「運」)
第2部 「運」をめぐる倫理学史―古代から近代までの一断面(徳と幸福の一致を求めて―アリストテレス以前;アリストテレス;ストア派;後生へのストア派の影響―デカルトの場合;アダム・スミス;運に抗して―現代の手前まで)
第3部 道徳と実存―現代の問題圏(道徳的運;倫理的運)
著者等紹介
古田徹也[フルタテツヤ]
1979年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。新潟大学准教授、専修大学准教授を経て、東京大学大学院人文社会系研究科准教授。専門は哲学・倫理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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たま
65
王侯貴族の運命について語るギリシャ悲劇や英仏古典悲劇は現代の私たちとは隔絶した物語と思っていたが、コロナ禍あり天災あり夭折の友あり「親ガチャ」なんて言葉も聞き、最近頻りに一人一人の運(命)を考えるようになってこの本を読んだ。倫理(道徳)、幸福(幸運)、運(命)をめぐる哲学者の考えをギリシャから近世を通って現代へと紹介する。西洋哲学史なので意志が一貫して重要だが、運は意志の産物と意志の産物でないものにまたがる観念であり、その二つは切り離せないという現代の(バーナード・ウィリアムズの)問題意識が興味深い。2025/01/04
ころこ
33
著者がタイトルに込めたのは道徳・倫理に関する議論ですが、冒頭に持ってきた「運」が潜在している可能性とはどうも嚙み合っていない感触があります。木島泰三『自由意志の向こう側』では、その時代における自然科学の知見と人間の直観の間を埋めるものが運命論でした。同じような問題意識で前半は、ギリシャ神話を引いて決定論と運命論に焦点が当たっています。偶然性が正反対の概念である必然性に変わる。そこに運命という装置が作動する不思議さにこの先の展開を期待しました。しかし、著者の意図はそこにはなかったようです。プラトンとアリスト2021/07/26
特盛
29
評価3.9/5。道徳と運がテーマの哲学。運が古代から現代まで西洋思想史上どう取り上げられてきたか、古典ギリシャ哲学、ストア派、デカルト、カント、アダムスミスまでまず振り返られる。ここで語られるのは、外在的な運の要素に振り回されない様に、いかに内面の自治を確保するかというのが大きな思想の骨だ。そして現代でのネーゲルやウィリアムスの道徳的運、即ち境遇の運、結果の運と善悪の議論が紹介される。我々は必然性と偶然性の網の目の中にある存在である。必然と偶然の崖に挟まれた稜線を恐れもし、また勇気を奮い歩くのだ。2024/11/08
踊る猫
22
古田徹也の議論は精緻だ。そして、私たちの住む日常/普通の生活を遊離しない地平から高度な哲学的支弁を重ねて考察を重ねていく。私たちは(「親ガチャ」という言葉に代表されるように)しばしば人生を「運ゲー」として捉える。運がいいか悪いか、人生はギャンブルなのかどうか。それはむろん「不道徳的」ではあるのだけれど、では私たちはそうした運に左右されずに自己責任原則を背負って、自分の行ったことに返ってきた結果を全部引き受けて生きるべきなのか。それはできない、と古田なら語るはず。そうしたリアリティを織り込む視点を支持したい2022/03/03
テツ
14
運を些細なファクターだと考えそんなものは努力で何とでも乗り越えられる的な巷に溢れる思考停止脳筋論に対して、本当にそうですかと問いかけてくれる一冊。道徳や倫理とそれに則り歩んでいく人生と、そこに不意に訪れる運の関係について説明され考えるうちに、自分自身の人生についての諦観めいた覚悟が生まれる。運に左右されることを理解しながら実らないかもしれない努力を重ねる。認められないかもしれない善行を積み重ねる。突然理不尽に全てが崩れ去るかもしれないと知りながら、それでも石を積み重ねる強さを磨いて生きていたい。2021/03/22