出版社内容情報
路地裏から消えた物たち。失われた景色。それらは、人々の記憶と暮らしの息吹もろとも消えてゆく。もはや戻らない時を追い求め、写真と文章でつづる町の記憶。
内容説明
貸本屋、共同アパート、裸電球の街灯、ドブ、コンクリートのごみ箱、路上のロウ石画、煙突、もの売り、番犬、原っぱ…かつて町にあったもの。気がつくとなくなっていて、無くなったことさえ忘れてしまうもの。それは二度と戻ってくることはない。変貌をつづける町で、それに追いつこうとすればするほど、過去はないがしろにされてゆく。変貌に慣れっこになってしまったあたしたちが、心に留めておきたい風景。なつかしいものたち。そのひとつひとつを、写真と文でつづる。
目次
第1章 失われたものたち(切ない貸本屋;コッペパン;大工さんのノコ ほか)
第2章 忘れられた風景(哀れな木;所在ないごみ箱;鳩ポッポは… ほか)
第3章 こんな習慣があったっけ…(お百度石;骨の天日干し;おーい、ワンコよ ほか)
第4章 幻の町をめぐる(消える公共住宅;街道沿いの石碑;季節外れ ほか)
著者等紹介
なぎら健壱[ナギラケンイチ]
1952年東京銀座生まれ。70年、中津川フォークジャンボリーに飛び入り参加したことがきっかけでデビュー。以後、音楽のみならず、映画、テレビ、ラジオの出演、執筆などで幅広く活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
167
本題の「町の忘れもの」は「町の忘れられたもの」という意。忘れたくない生活の佇まいを探し歩く、東京の下町で育ったなぎら健壱さん。初めて見るものもあった。石のごみ箱、ポンプ式殺虫剤、4桁の電話番号。朝方のシジミと納豆売り。夕方の豆腐屋、夜鳴きそば屋にラーメン屋台。大きな駅にあった手荷物預かり場。町中には、なぎらさんさえ知らないものもあった。今や、壊れたり飽きたりしたら棄て去って、新しいものに囲まれている。少し昔の風景を振り返ることで、思い出すことがある。年の瀬に哀愁漂う素敵な一冊。寒風の町を歩いてみようかな。2023/12/29
ホークス
47
なぎら健壱氏の撮った懐かしい物件のモノクロ写真と、肩の力の抜けた解説。年齢的に丸くなっているので毒は無く、物件選びに変な拘りも無いが現存しない物もある。貸本屋はある意味電子的に復活したということだろう。殺虫剤の噴霧器は形状自体にレトロ感がある。街中の古い公会堂は小さいくせに厳しいのが面白い。石のゴミ箱は子供の頃からちょっと遺跡っぽかった。廊下が貫通する共同アパートは今や文化財になりつつある。消えるのは寂しいが、貧しさを必死で打ち消してきた事が分かるから、無闇に「残せ」とも言えないのだ。2018/04/23
saga
17
忘れ去られる町を著者なぎら氏が切り撮ったノスタルジックな本。著者の話口調を思い浮かべながら読了。写真がすべてモノクロであることが良く、その写真を光が当たる正面から見るのではなく、斜に見るとコントラストが強くなって「タイムスリップしてその時代に行くとしたら、こんな景色に見えるんだろうな」なんて思ったりした。なぎら氏とは一回り以上歳が離れているのだが、妙に知っている物・事が多かった。2012/11/25
けんとまん1007
15
かつてあって、今は無くなってしまったもの。あるいは、見かけなくなってしまったもの。忘れ去られたように、町の片隅にあるもの。そうそう、町の忘れものとは、うまい言い方だなあ。軽い言い回しとモノクロ写真だからこそ伝わるものが、上手くブレンドされた感じがして、とても心地よい。単なるノスタルジーでないのがいいと思う。と、気がついた。一番の忘れ物は、人情とか時間なのではないのかなと。近視眼的な目ばかりが目に付くようになってきたことだ。2013/11/23
ぶうたん
12
著者が町歩きで撮りためた写真と、それにまつわる文章を集めた本。失われゆく庶民の生活の切れ端を掬い上げて紡いだという趣である。時の流れは止められず変化は不可避なので、その中で失われていくものが多いのは当然であるが、それでは悲しいというのが本書の基調である。このためセンチメンタルリズムやノスタルジアが深いことは否めない。過去とは必ずしも全肯定できるものではないからそれで良いかは疑問であるが、一回り程度年上の著者が見てきた風景は馴染のあるもので、読み手も懐古趣味的な視点になってしまうところは避けられなかった。2021/05/22