内容説明
父と子(特に息子)の間には、母とのそれにはない、独特な感情の交錯がある。しかし、そこにはまた、私的な関係におさまらないものも胚胎されているのではないか。本書は、近代日本における父子問題の典型を、夏目漱石、中野重治、中上健次の作品から浮きあがらせた前半部と、それらを思想的にとらえなおしたとき、何が見えてくるのかを論じた後半部からなる。父子関係がわれわれにとって持つ意味とは何か。読者は近代を貫く大きな問題系へと引き寄せられることだろう。
目次
なぜ父子を問題にするのか
第1部 文学に見る父子(通じあえない父子;拮抗する父子;「父殺し」の試み)
第2部 父子問題の射程とその行方(知識人をめぐって;家・田舎・辺境;回帰の構造;父子問題の現況について)
著者等紹介
小林敏明[コバヤシトシアキ]
1948年岐阜県生まれ。1996年ベルリン自由大学学位取得。ライプツィヒ大学教授資格取得を経て、ライプツィヒ大学東アジア研究所教授。専門は哲学・精神病理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ceskepivo
2
自分もそうだが、父親との間には通じ合えない壁がある。なぜか。父親は、「家」「共同体」「国家」への連続性を体現する、いわば抑圧者と言う形において、子の抵抗の対象になっていたのだ(238頁)。仮に父親がその連続性を断ち切っても、機能としての「父」は、家族が社会の中にいる限り、だれかによって代理されるだけに過ぎない。管理化が進んだ学校のように、その「代理権力」はやがて大きなシステム権力と化すだろうとのこと(238頁)。つまり、父親が父親としての役割を果たさないと、社会が管理社会になってしまうということか。2011/04/27
manmachine
1
漱石・中野・中上。まさに正面突破。2009/06/23