内容説明
義に厚く、潔い男の中の男。「武士」という言葉から連想される通念であろう。現代には失われた日本の美徳を、われわれは「武士道」へと投影しがちだ。しかし、多くの史料には、嫉妬心から足を引っ張りあう、彼らの等身大の生き様が描かれている。では、なにゆえにサムライたちは、かくも生臭い情念に翻弄されねばならなかったのか。そして、その心性を根深く規定した日本社会の特質とは。一級資料を丹念に掘り起こし、嫉妬うずまく武士社会の実像を浮き彫りにする刺激的な試み。
目次
第1章 名誉ある武士の嫉妬
第2章 殉死者をめぐる嫉妬心
第3章 嫉妬にもとづく陰湿な批判
第4章 正義の根底に嫉妬心あり
第5章 嫉妬に沈められた長谷川/平蔵
第6章 他人の出世に羨望する人々
第7章 嫉妬を緩和し、温存するシステム
著者等紹介
山本博文[ヤマモトヒロフミ]
1957年岡山県生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。同大学院人文科学研究科修士課程修了。文学博士。東京大学史料編纂所教授。専攻は日本近世史。92年、『江戸お留守居役の日記』(読売新聞社、現在は講談社学術文庫)で第40回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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有機物ちゃん
7
《男の嫉妬はこのような正論に包まれて表明される。(p140引用)嫉妬するものされるもの、各々に自己正当化の論理を持っていることが男の嫉妬の特質であった。男の嫉妬の感情が多くは正論でなされることもそれをよく示している。自己過大評価にもとづく自己を美化する傾向~》←昔妖怪系か民俗学系かなんの本を読んだのか忘れたのだけど、悋気や妬み嫉みという感情は主に女の感情と言われていたと見て、男に嫉妬はないものにされてるんだなぁと感じたのだがこの本読んで「だからか~!」となんか納得した。正義という仮面で表に出さないんだね2025/08/19
Yoko Narano
2
「男の嫉妬」は、正論にくるんで表明される。時代が下るほど、怨恨を自己正当化するためだけの正論が増える。発言の内容より、「なぜこの人はこんな発言をするのか」、嫉妬のもとになっているコンプレックスは何なのか、を考えたほうがいい……。昔も今もあまり変わらないですね。江戸時代は刃傷沙汰が多いですが。2013/09/07
アノマリー
0
○日本の嫉妬のメカニズムを武士のうちに探る良書。2012/11/09
げんさん
0
武士道に殉ずる武士といえども、嫉妬の感情は抑えられない。現代社会の嫉妬のルーツはすでに江戸時代からあった