ちくま文庫
晩夏〈下〉

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  • サイズ 文庫判/ページ数 492p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784480039453
  • NDC分類 943
  • Cコード C0197

内容説明

「薔薇の家」から庭を越えて農場へ。時には遠く赤い十字架の建つライト丘まで。夏の光が溢れる中、独り散策を繰返すナターリエ。そんな姿を知りながら、青年もまた近郊の野や山を独り黙然と彷徨する。ある日の夕暮れ。二人の道は丘の上のベンチの木陰で交錯する。交わされる、穏やかで、慎ましやかで、僅かな会話…描かれる自然、森や川、野原や丘の何という味わい深さ。物語は、祝祭の時へ向かって静かに高まって行く。一人また一人と明かされる登場人物たちの名前。青年の名もまた高らかに宣言される時が…物語の終わるのが惜しい―ニーチェが再読三読に値すると評し、「ドイツ文学の至宝」と激賞した世界文学の逸品。

著者等紹介

シュティフター,アーダルベルト[シュティフター,アーダルベルト][Stifter,Adalbert]
1805‐1868。オーストリアの作家。ボヘミアのオーバープラーン(現チェコ、ホルニー・プラナー)に生まれる。ウィーン大学に在籍。数学・物理学・天文学を好んで聴講。初め画家を志すが「コンドル」の成功で文筆活動に入る。人間を、自然との関わりの中で描く独特な作品を残す

藤村宏[フジムラヒロシ]
1912‐1999。函館生まれ。東京大学独文科卒業。東京大学教授、日本大学教授を歴任。東京大学名誉教授。永くシュティフターの研究に携わる
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ケイ

126
自然は美しく雄大で、そこに咲き誇るバラの美しさが見えるようだ。そしてそのバラの香りに包まれるような文章。ただ、完全に浸りきれなかったのは、彼の女性や妻に対する感情の割り切れなさだった。夫婦間の思いやりや共に歩む姿勢は、彼の言うこととは違うように思えたからだ。真面目な考え方や暮らしと その部分はまた違うのかもしれないな。彼の今後に幸多かれと思う。とても読みやすく、訳者に感謝。2019/05/05

syaori

42
やはり「私」を導く人々にも様々な過去があったです。彼らはそれを慎ましく語るのですが、彼らが現在の穏やかで自然な人格に至るまでには本当に「沢山の積み重ねがあったに違いありません」。それを思い、彼らへの敬愛も増すばかり。そして彼らが彼を導くように彼らを導いた存在もあるようで、その繰り返される真摯で美しい営みを思うと厳かで幸せな気持ちが高まります。そこには、それにより今よりもっと高みへ、幸福へ至るのだという作者の願いが込められているようで、この「人間性の美しいところが集められて」いる物語にとても胸打たれました。2018/02/21

timeturner

7
知と愛と善が一点の曇りもなく調和した世界を、リルケの言うところの「素晴しきアダージオ」で描いた作品。何ものにも急かされず、一言一句を味わえる時期に読めてよかった。あまり幸せな生涯を送ったようには見えない作者は、薔薇の家の主人に自身を重ねることで慰めを得たのだろうか。ギッシングが『ヘンリ・ライクロフトの私記』を書いたのと同じような心境だったのかな。切ない。2019/07/27

Hepatica nobilis

6
永遠に静止したように長いこの小説も、終盤になってようやく物語が動き出し諦念の中で静かに結末を迎える。ニーチェ、トーマス・マンの称賛ばかりが空虚な枕詞と化しているが、暗い時代にあって書かれたこの小説自体が彼らを凌ぐ唯一無二の価値を持っていると思う。シュティフターは大作家ではないかもしれないが、あえて言うならドイツ語圏で生まれた最高の作家だろう。

ぴこ

5
丁度一年前くらいに著者の本に触れ始めた。読んでいてこれ程穏やかな感動に包まれることはないだろう。晩夏のなかで語られる物語はどれも衝撃や破局とは無縁である。あるいは激しい感動は間接的に淡々と語られるに過ぎない。重要なのは物語の時間で、読者はいつのまにか反復する時間のなかに引き入れられるが、それが退屈とは感じなくなる。読むのが苦痛どころか、いつまでも読み続けたくなる作品でした。これで私もポーランド王。 2013/10/12

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