内容説明
ジョン・フランシス・シェイド(1898‐1959)は、架空の詩人だ。その詩人の999行からなる長大な瞑想詩『青白い炎』を本文に掲げ、序文と注釈と索引を付して、研究書の体裁を整えるのは、これまた架空の人物、キンボート。彼は詩人の隣人でもあり、ロシア文学の教授でもあるのだが、実は狂人?…。彼の施す長大な注釈からはサスペンスが横溢。これは一体また何という注釈だろう!二つの異質なエクリチュールを配することで、合わせ鏡の迷宮にも似た不思議な文学空間の現出に成功、読者を唖然とさせた、ナボコフ円熟期の実験小説の傑作。
著者等紹介
ナボコフ,ウラジーミル[ナボコフ,ウラジーミル][Nabokov,Vladimir Vladimirovich]
1899‐1977。ロシア貴族の子としてペテルブルグに生まれ、革命により19年に亡命。ケンブリッジ大学卒業後、ベルリン、パリの生活を経て40年に渡米。コーネル大学などで文学を講じ、同時に英語による小説の執筆をはじめる。実験的な技巧に彩られた作品の数々は、近年ますます注目を集めている
富士川義之[フジカワヨシユキ]
1938年、岡山市に生まれる。東京大学文学部教授を経て、現在、駒沢大学文学部教授。英文学専攻
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
332
ロシア文学者チャールズ・キンボートの前書き、ジョン・F・シェイドの999行からなる詩『青白い炎』、キンボートによる膨大な注釈、そして索引で構成される書。キンボートもシェイドもフィクションの中の人物である。これが実験的な小説であることは論を待たないが、残念ながら私にはこの作品のトータルな世界を把握することはできなかったし、またそもそも小説とは何かという根元的な懐疑に向き合うことからも排除されてしまった。平たく言えば、どのように楽しめばいいのかわからないのだ。降参である。2019/07/12
NAO
53
詩人シェイドの新作の詩「青白い炎」と、詩人の友人で大学教授であるキンボートが「青白い炎」の前書き、註釈、索引という形で別の物語を語るという実験小説。読んでいるうちに、まるでストーカーのようにシェイドを追廻し監視するキンボートと彼を極力無視して避けようとするシェイド夫妻の温度差が、異様な、不思議なずれとなって、作品の世界が微妙に捩じれていくような感じを受ける。国の滅亡と逃亡者の悲惨を描いたミステリのようでもあり、すべてがキンボートの妄想のようでもある。不思議な話だけれど、私は結構面白く読んだ。2016/12/08
Tonex
50
ある詩人が書いた長篇詩に、その詩人の友人と称する男(大学教授、実は狂人?)が前書きと註釈と索引をつけた学術書。という体裁をとっているが、その註釈の中に妄想がまぎれ込んでいて、じっくり読み解くと意外なストーリーが浮かび上がるという仕掛け。逸脱と脱線にみちた註釈は、深読みと曲解と誤読と改竄の連続。実は註釈の方が本編で、ページ数も註釈の方が多い。▼タイトルは、長篇詩の題名「青白い炎」(原題:Pale Fire)から。▼とりあえずざっと目を通したが全然面白くない。一種のパズル小説なので速読になじまない。→再読!2016/06/08
Tonex
43
再読。1回目より面白い。全体を把握したうえで最初から読むと細部の仕掛けが見えてくる。▼詩とその註釈という学術書スタイルの実験小説。詩の部分は左頁が英文、右頁が日本語という対訳形式。▼英詩は苦手だが、最初の方だけ少し読んでみた。35頁に「Retake the falling sonw」という文章がある。わざと「snow(雪)」を「sonw」と綴りを間違えて書くというナボコフの遊びかと思ったが、念のためネットで英文テキストを確認したら、「snow」だった。単なる誤植。第一刷。その後訂正されたかどうか未確認。 2016/06/10
くまさん
16
他人は死ぬ、しかし僕は他人ではない、ゆえに僕は死なないと記した詩人シェイドもいつかは死ぬ。学者キンボートがほどこしたその詩篇の膨大な註釈は、迂回に迂回を重ね、もはや創作と化していく。事実や典拠の確からしさは見いだせず、詩と註の不安定な往復の渦に巻き込まれてしまう。そもそも詩人が影(シェイド、亡霊)であるとしたら?青白い、ぬくもりのない炎は存在するか?「わたしは窓ガラスに映った偽りの青空に殺された連雀の影」という一行から、何かが読めることの奇跡と、「何を本気で信じているのか」を突きつけられ、途方に暮れた。2018/08/02