内容説明
文学の極限の扉をおし開く苛烈なポエジーの試み―未完の逆説としての散文詩集「パリの憂鬱」をはじめ、ハシッシュ・阿片・葡萄酒の効果を考究し、対する態度を省察する『人工天国』、さらに唯一の小説『ラ・ファンファルロ』など、「詩」の純乎たる光にひたされたテクストを収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
53
本巻を読み、コレスポンダンスが苦痛の上にある事を思いみる。秋の夕暮、空や海を望見しながら愉悦が苦痛へと転じていく…これは後に現れるハシシュの体験に重なる。見世物にされ生肉を食いちぎる女、誇り高く痩せて貧民に混じる寡婦、力なく柱に凭れる老大道芸人…彼らはパリの巷から詩人が掬い上げた幻であり、病的に鋭い感覚が捉えた人の世の徒なる姿である。だが詩人はハシシュを葡萄酒の如くには友としない。それは《悔恨に対する甘美なる観照》を行わせ、人を限りない驕慢へ誘い込むからだ。詩と人間と葡萄酒の同盟の、何とすばらしいことか。2015/10/11
月
13
パリの憂鬱(小散文詩)、玩具のモラル、人工天国(散文)、ラ・ファンファルロ(小説)収録。小散文詩もいいが、詩人の散文、小説を主目的にして読了。人工天国では、アシッシュを賛美もしくは否定しているのかが興味深く、当時或る種の賛美を唱える芸術家も多いなか、詩人は「葡萄酒とハシッシュ」のなかで、詩的幻覚状態を薬物に頼らずに意志の純粋かつ自由な行使によって作り出すのが真の詩人の芸術的営為だと言い切る。散文での客観的分析力とその文体(表現力)もある意味新鮮。次は詩人のアフォリズム(火箭、赤裸の心)へと向かいたい。2016/09/07
yunomi
2
私は韻律詩が苦手なので、「悪の華」より「パリの憂鬱」の方が面白く読めた。ボードレールにとっての自然とは、科学や技術の結晶たる大都市であり、ひいてはそこに流れる人間の意志なのである。それは、単にバブリーな進歩主義とは一線を画す。ボードレールは技術や経済の発展によるひずみから視線を背けようとはしない。それもまた、人間の意志が招くもうひとつの結果だからである。だから、彼は人間から意志を奪い、底なしの快楽へと引きずり込む麻薬を忌避する。ボードレールの快楽主義は徹底してストイックなのである。2018/09/18