内容説明
空を飛べなかった神学生は、海と魚の世界に幸福を見出して真珠採りになり(「水くぐる人」)、旅廻り一座のマリは船主の息子と恋に落ちるが、孤独な天職に戻り(「あらし」)、カントンの大富豪は物語を実現しようとして失敗し(「不滅の物語」)、羊泥棒にでくわした新妻は、すべてが変わってしまう。人間のさまざまな運命を結晶させた物語集。物語を読むことは自己発見の旅なのだ。「水くぐる人」と「あらし」は本邦初訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
38
どんな物語にも宗教や文化、食物、衣装など、作者の出身地や住んでいた地の名残のようなものがあることが多い。しかし、この物語には決まった地域の特色は少ない。まるで作者自身が流浪の旅人で旅して出逢った光景を描写しているような雰囲気がするのだ。だからこそ、この物語は一つ一つが万華鏡のよう。空への憧れから水への親しみにホッと息をつく「水くぐる人」とシャイクスピアの「テンペスト」を軸にして展開される呪われた女性の恋を描いた「あらし」がお気に入り。2014/06/23
三柴ゆよし
31
物語を物語るのは私なのか、あるいはその私こそが物語によって物語られるところの何者かなのか。そうした同語反復すれすれのスリルを含んでいるところに、前近代的なおとぎ話とブリクセンの短篇小説とを隔てるなにががあるのだろう。たとえば「水くぐる人」において、夢やぶれた男の物語は物言わぬ者たちの短い格言に回収され、「不滅の物語」では、物語を現実のものとしようとする試みが、決して物語ではありえないはずの、それでいてまさしく不滅の物語を余韻として静かに破綻する。物語との距離感を現実の尺度にしている人にはぜひ読んでほしい。2013/02/19
堆朱椿
3
本来の「運命綺譚」はこの中に「バベットの晩餐」が入っているはずなのだそう。入っていたら、本の印象が少し違うかもしれない。「不滅の物語」と「指輪」は、「不滅の物語(国書刊行会)」にも収録されている。シニカルではなく、優しくもないブリクセン(ディーネセン)の物語が、私は大好きで何度でも読み直したくなる。全集が出ないかな…。2014/09/19
桜子
3
「水くぐる人」空を飛び天使と交わることを夢みた神学生が漁る民になった理由とは・・・ハコフグばあさんの話がとても素敵!「あらし」テンペストを題材に勇敢な乙女の慄きを丹念に写し取った、ある奇跡の物語。空想の世界では享受したいと願う甘やかな運命。いざ無償で提供されると尻込みして辞退しようとする心理の不思議。世界の均衡を崩すのではないかという素朴な恐れか、はたまた身の程をわきまえているのか。奥ゆかしく迷信深い市井人たちの等身大の悲喜こもごもに親近感が湧く。2012/04/03
ユエ
1
何回か読み返し中。ものがたりに独特のうねりがある。「水くぐる人」の行きつ戻りりする感じが心地いい。2013/01/19
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