内容説明
“腕達者”な時期に書かれた“南海もの”の総決算で第一級の作品集。推理小説としても傑れている「密林の足跡」、三角関係で近親相姦を扱った「書物袋」をはじめ「機会の扉」「怒りの器」「この世の果て」「ニール・マックアダム」の六篇収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
31
「密林の足跡」マレーのクラブで警察署長ゲイズの家に滞在していた私はカートライト夫妻に会う。妻は「小気味よく山葵が利いているが、すこぶる面白くて、よほどの愚物でないかぎり気をわるくさせられるようなことはない」と大絶賛なのに、夫は「疲れていて、大分老けている」対照的なカップルだ。前はああじゃなかったと夫妻の過去を知っているゲイズが語り始めたのは。最後のゲイズの人間観にあなたは同意しますか?「機会の扉」任地から戻ってきたアンとアルバン夫妻。ロンドンに戻ってこられて大喜びのアルバンに比べて、アンは厳しい表情。2022/06/04
くさてる
22
モームの「南海もの」6篇を収録。モームがすごいとか言ったらいまさらすぎるというかなにをいまごろなんでしょうが、私は「機会の扉」を読んだあと、しばらく寝込みたくなった。アンの思いも、アルバンの心性も分かる、分かるだけに、人間てどうしようもないな! ほんと、どうしようもないな! アン、美味しいものでも食べに行くか! という気分になりました。でも、アルバンのような男性の弱さも良く分かるの……。他の作品も良かった。裏のあらすじを読まずにいたことが幸いした「書物袋」が特に好きです。2022/07/11
Aminadab
21
南海もの短編集3冊目で最後の一冊。原文もちょこちょこ見た。1冊目『木の葉のそよぎ』(雨・赤毛収録)、2冊目『カジュアリーナ・トリー』に比べるとかなり重厚。とりわけ、これにて南海もの打ち止めという気構えで書かれた「ニール・マックアダム」が複雑な味わい。いわば究極の童貞・朴念仁小説であり、訳者が普通に「マカダム」と書かないのは、旧約創世記の楽園喪失物語が踏まえられているから。主人公の朴念仁ニール君の美青年ぶりと、かれに熱烈に求愛するが拒絶されるオバサンには、ゲイだったモームの体験が反映されているだろう。○。2025/03/13
きりぱい
8
これは面白い!女性心理のちらっと俗な部分ものぞかせつつ、冷める心理の致命的な一瞬に一致を見る「機会の扉」が一番好みだけれど、笑ってしまうほどの被害妄想が思わぬ進展を見せる「怒りの器」もいい。「ニール・マックアダム」も、南海ものでは名作の「雨」と対を成すような幕切れ。ユーモラスでありながらいたたまれなく、人間のぶざまさや弱い心への視線が鋭くも情け深い。南海ものの総決算を集めたらしいこの短編集、実に魅力的!2011/11/02
ホレイシア
6
これは面白かった、傑作ぞろい!2008/01/01