内容説明
東インド諸島、マレー半島にかけて生育する奇木。満月の夜、この木の蔭に立つと、未来の秘密を囁く声が聞こえるという。その木の名前はカジュアリーナ・トリー。南島未開の異常な環境のもとにおける、異常な事件と、異常な心理をあつかった6つの短篇を収論。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
33
「園遊会までBefore The Party」 スキナー夫妻は家族を連れて久々の園遊会に出かけようとしていた。夫人は亡き娘婿ハロルドのくれた白鷺の縁なし帽子を被る予定だ。亡くなってまだ一年が経っていないのに喪服を着ようとしないミリセントが気になって、妹キャサリンは聞いた話をぶちまけるが、ミリセントの告白は軽くそれを上回っていた。南方は本国と離れ開放的な気分になるが、同時に自身を島流しのような身分にも感じる。何より見知らぬ人達の間に囲まれていたことが、このような事件を起こすきっかけになったのだろうか。2022/06/03
くさてる
18
ボルネオ、マレーなどの英の植民地を舞台にした人間の営みを描いた短編集。かつてアンソロジーで読んだ「園遊会まで」がやはりすごい。怖い。人間の凄みがある。「環境の力」のラストもちょっとうなされるようなものがある。その他の短篇も、人間の普遍的な醜さと苦しみが描かれているにもかかわらず、読後感は悪くなく、迫力あって読み進めずにいられなかった。やはりモームはすごいなあ……。2022/05/21
きりぱい
8
はるか英国を離れた植民地での暮らしで、気付かぬうちに陥いる心の変調を扱った短編集。島民との摩擦というよりも、英国人同士での不協和音。読んで面白いのは、常軌を逸した顛末にぞっとする話だけれど、夫の過去の行いをどうしても受け入れられない妻や、夫の恋を許容なんて出来ない妻の心の内に同調してしまって、不思議とそちらの方に余韻が残る。「奥地駐屯地」だけ既読だったけれど、俗物と言われようがくだらないこだわりから生じるイライラ感はよくわかり、「臆病者」の対照的な二人と同様、心理運びにつり込まれる。2010/12/04
あくび虫
4
何を読んでも面白い。スマートで手早い筆致は、野暮ったい話にも、不思議に小洒落た色を感じさせてくれます。もう感心して読んでしまいます。2019/01/05
みずいろ
4
後半にむかって盛り上がっていき、これぞ短編小説の極みといったかんじ。二篇ほど既読だったが、初読と同じ鮮やかさで読ませるのがすごい。「臆病者」「手紙」などでは、特殊な環境下ではなくとも共通する感情ひとつを、徹底的に描ききる。「東洋航路」の明るいラストがいつもとは違い新鮮だった。人間の醜さを鋭く抉りだしてきたモームだからこそ書けた、人間の可能性の物語であった。2012/02/12
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