内容説明
リトル・ドリットの父ウィリアムは、破産して長いこと債務者監獄暮らしをしていた。家族と共に。リトル・ドリットに心ひかれるアーサーは、何とか助け出せないものかと奔走する。その結果、ウィリアムは莫大な遺産を得、25年にわたる監獄生活から解放されることになった。19世紀イギリス社会における影の部分を描きだす問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
112
アイデンティティや自己実現も本作の重要なテーマ。アーサーの行動の主な動機は母親から植え付けられた原罪思想と父親の罪への脅迫概念に起因している。実家に寄りつかない彼と監獄を家だと明言するエイミーの対比、母親に示せない意思、異性への自己否定的なまでの消極性などに育ちで負った精神的外傷が現れている。エイミーが出獄時に口にする疑問もまた育ちから来る心のシミだ。二人はオリバーやリトル・ネルを大人版にアップデートさせた精神的な孤児であり、著者自らが抱えた漠然とした罪悪感や不安の根源を探るための鏡だったのではないか。2018/06/01
ケイ
104
リトルドリットはシンデレラのようなもの、いやもっとひどい、彼女の父や兄姉が彼女を虐げているという意識がないのだから、と憤りをかんじながら読んでいた。しかし、2巻の最後まできて、リトルドリットのような存在がいる家族は多いのではないかと思った。無意識に尽くす人が家族の中にいると、みんなその人がしてくれることを当然に思うものかもしれない。そういう状況を敢えて気付かせるように書きあげるディケンズの、弱者を視る優しさが様々な作品にあらわれているように思えてならない。2016/01/28
NAO
32
ドリット家は、表向きには仲が良いが、プライドの高い父と姉、怠け者の兄、みながリトル・ドリットの働きにすがって生きていながら、「監獄内で生まれた」末娘を自分たちとは違うと差別している。同じような境遇にありながら、性格の良さが損なわれないリトル・ドリットと、真逆の性格の謎の少女タティコーラム。ディケンズは、本当に、貧しい人々のさまざまな性格を描くのが上手い。けなげなリトル・ドリットのためにとアーサーが尽力したことで大きく変化したドリット家の状況。なのにまだこの先2巻もあるとは、どうなっていくというのだろう。2015/11/27
ごへいもち
21
ユーモアたっぷりで思わず吹き出す(全然感情のこもっていない大きな美しい目、全然感情のこもっていない美しい黒い髪の毛、全然感情のこもっていない美しい豊かな胸、全然感情のこもっていない美しい顎の持主のレディだとか ETC)。挿絵もナイス(だけどこの版では本文と20ページぐらい離れたところにあるのが不満)。ドラマチックな展開にワクワク。2012/05/13
秋良
12
タグボートのように主人を引っ張り蒸気を出すパンクス、全然感情のこもっていない大きな美しい目を持つ夫人、句読点なしのフローラなど脇役の書込みが素晴らしく細かく、いちいちクスッと笑ってしまう。本筋はドリット一家が晴れて監獄を出ることになる……んだけど、金銭感覚が麻痺してそうでこの先ちゃんとやっていけるのか疑問。荒涼館には及ばないもののだんだんエンジンがかかってきて、あと2冊は楽に読めそう。2022/06/25