出版社内容情報
〈連帯〉という言葉はすでに有効性を失っているのだろうか……。思想史的検討を経て、連帯が人間の基本構造であることを提示し、言葉の彫琢を試みた初の論考。
内容説明
“連帯”という言葉はすでに有効性を失っているのだろうか―。人間一人ひとりは欠如を抱えているが、複数人が結合すると一人では不可能な過剰が生まれる。この欠如と過剰を往還するなかでわれわれの日々の生は形づくられる。本書は、連帯の定義・分類・歴史から始まり、経済や宗教との関わり、そして連帯それ自体が持つ困難について包括的に考察した初の論考。人間の存在構造として連帯を捉え、その可能性をいま一度問いなおす。
目次
序章 問題としての連帯
第1章 連帯の類型と定義
第2章 社会的連帯論の系譜
第3章 政治的連帯論の系譜
第4章 市民的連帯の圏域
第5章 現代における展開
第6章 キリスト教の連帯論
第7章 連帯経済とは何か
第8章 人間的連帯と倫理
終章 連帯の限界と未来
著者等紹介
馬渕浩二[マブチコウジ]
1967年岩手県生まれ。東北大学大学院博士課程修了。中央学院大学教授。博士(文学)。専攻は、倫理学・社会哲学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
33
S市新刊棚より。本書は、相互扶助、連帯が日常生活の常態であると主張する(023頁)。著者の連帯の定義は050頁。共通の性質・利益・目的を共有する複数の者、他者の利益・目的の実現に関与する複数の者が、協働や扶助を引き受けることで成立する結合。一体感の感情が伴う。協同組合の存在意義は、組合員の生活を向上させてゆくことである(260頁)。フェアトレード、公正な貿易・取引とは、途上国からの輸入品を公正な条件のもとで購入する運動(262頁)。2021/08/19
jackbdc
4
連帯をテーマに縦横無尽に論考する本。人間的連帯が市場経済の台頭により衰退しており、福祉国家が制度的に機能を補助し何とか繋いている。災害ユートピアの例等からは連帯の普遍性を見出せると主張する。通読中に考えたのは、連帯の手段性と目的性について。一般的には何らかの目的のために連帯を選択するという前提がある。貨幣の交換はこの範疇の行動である。しかし自然に連帯してしまうという行動形態も意外と多いように思った。つまり連帯それ自体の目的化こそ普遍性ある行動であり、現代人の欠乏感に連なっているのかもしれないと思った。2021/10/17
ひつまぶし
2
連帯にかかわる議論の総論というだけでなく、著者なりの連帯論ともなっており、とても勉強になった。第1章から第4章までは大まかな学説史として読める。第5章はその現代版としての補足。第6章、第7章はちょっと浮いている印象を受ける。「倫理的連帯」へと接続される第8章で論じられる人間的連帯で総括がなされる。すべてに通ずる普遍性を目指すのではなく、偏在的であっても「分かち合い」に開かれていることが、結果として連帯の基盤となる。カミュの不条理、ローティの苦痛や屈辱を連帯の契機とする議論についてもっと考えたい。2024/12/18
Go Extreme
1
問題としての連帯:災害ユートピア 連帯する人間 連帯の類型と定義:類型 定義 社会的連帯論の系譜:社会的連帯論の先駆 デュルケーム ブルジョワ 社会的連帯論の射程 政治的連帯論の系譜:アナキズム カミュ 市民的連帯の圏域:福祉国会 脆弱性と依存 資本制 連帯の危機 現代における展開:連帯の困難 リスク社会 ロ―ティの連帯論 合理的選択 キリスト教の連帯論:愛から連帯へ 社会教説 解放の神学 社会教説の外部へ 連帯経済とは何か:資本制・経済・連帯 連帯経済 人間的連帯と倫理 連帯の限界と未来2021/10/06
Haruki
0
分断が進む社会で、連帯を求める声をよく聞く。しかし幅広い意味を持ち、その成立条件や境界は文脈によって大きく異なる。本書では、社会的連帯(同集団の連帯)、政治的連帯(同目的の連帯)、市民的連帯(匿名の市民としての福祉的な連帯)、法的な連帯(債務の責任)に加え、その根底としての人間的連帯も説明。一定の集団とそれ以外という境界を持つような連帯は、ポストモダンでは批判されるが、貧困や差別など危機下では個人で立ち向かう限界が認識され宗教、経済も連帯を志向。最後は複数人に対する倫理的な開放性として人間的連帯を定義。2022/08/06