出版社内容情報
多数派なのに思い悩み、医学的には不要な手術を選ぶ男たち。仮性包茎はなぜ恥ずかしいのか。幕末から現代までの文献を解読し深層を浮かび上がらせた快作!
内容説明
仮性包茎は医学上、病気ではなく、手術も不要である。日本人男性の半数以上が仮性包茎とされている。多数派であるのに多くの男性がこれを恥じ、秘密にしようとするのはなぜか。そのままでは女性に嫌われると一部の美容外科医は言い募り、男性による嘲弄の対象ともなってきた。仮性包茎を恥じる感覚は、どのようにして形成されたのか。江戸後期から現代まで、医学書から性の指南書、週刊誌まで、膨大な文献を読み解き、仮性包茎をめぐる感覚の二〇〇年史を描き出す。歴史社会学者による本邦初の書!
目次
序章 なぜ仮性包茎の歴史なのか
第1章 恥と包茎―一九四〇年代半ばまで
第2章 包茎手術の商品化―戦後の混乱期から一九六〇年代まで
第3章 青年と包茎―一九七〇年代から九〇年代まで
第4章 中高年と包茎―一九八〇年代から現代まで
終章 包茎手術のたそがれ
著者等紹介
澁谷知美[シブヤトモミ]
1972年、大阪市生まれ。東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター准教授。博士(教育学・東京大学)。ジェンダー及び男性のセクシュアリティの歴史を研究している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
1959のコールマン
71
☆5。仮性包茎イデオロギーが表のテーマだが、裏のテーマは「男が男を支配するイデオロギー」「男の生きづらさの正体」だろう。男らしさ、男の理想像、ふん、そんなもんと無視出来る男はほぼいない。だから仮性包茎イデオロギーを煽られるとひとたまりもない。無視しても心の深い所に絡め取られてしまう。そして生きづらさ、プレッシャーからくる不満は実際のクリニック、メディアに向かわず、自分という弱者に向かう。自己嫌悪のスパイラルに落とされる。こう考えると、世の中に溢れる「差別の構造」の典型のようなケースだ。↓2021/03/04
TATA
39
興味本位で手に取ってみたのだが、こんなテーマなのに中身はとっても真面目な社会&ジェンダー論。男性の身体の暗部をいかに焚き付けて商売にしてきたか。たしかに自身が学生の頃は巷にそういった宣伝が蔓延してたな。一部の医師と一緒になって祭り上げた雑誌はほぼ廃刊。人のコンプレックスにつけ込むタイアップ広告で稼いでいたようなメディアは長続きできるわけもないということ。軽佻浮薄なあの時代を懐かしむのか、はたまた嘲笑するのか。2021/09/12
おかむら
33
ちょっと(かなり?)手に取りにくいタイトル(もしかして男性の方がもっと?)ですが、とても面白い歴史社会学の本。日本の包茎の200年史。日本人男性の6割を超えるという仮性包茎はなぜ恥ずかしいものとなったのかを、豊富な文献資料から紐解く。明治時代から戦前までのトンデモ研究や珍説も楽しいし、戦後の青年誌上に頻出した整形クリニックのタイアップ記事の検証は面白すぎる。包茎ビジネス恐るべし。高須めー! よく知らなかったセンシティブな男の生きづらさの世界を垣間見れました。2021/03/14
遊々亭おさる
26
日本人男性の内、半数以上が仮性包茎であり医学的には病気ではなく手術も必要としない。にも関わらず男は包茎を恥じ、他者から一人前と認められないと思うのは何故か?戦前から現代までの文献から捏造により仮性包茎が差別され続けてきた歴史と要因を読み解き、生きづらさの原因ともなる日本男児と大和撫子から自由になろうと説く一冊。北極でアイスクリーム屋を繁盛させるような美容整形医のメディアを使った広告戦略はビジネスマンの逞しさは感じるものの医者の倫理としてはどうなのと。男の幸せと女の幸せの両立は男性器神話から自由になること。2021/04/17
Nobu A
18
澁谷知美著書初読。2021年初版。筆者所属の東京経済大学HPで見かけて手に取った。真面目な本だとは判っていたが、公共交通機関では読めないタイトル。何故男性でなく女性が研究テーマにしたのかと言う疑問もあとがきで明かされる。M検で男性ペニスに関するデータが豊富にあった戦前期から現代までの歴史を振り返り、美容整形外科医が包茎手術の商品化の為にどのような言説をどのように流通させたかを検証及び考察。読み易い筆致で巻末の30頁超の参考文献から研究者としての矜恃も伝わってくる。一皮剥けた気がする。心がだよ。久々の良書。2022/08/20
-
- 和書
- 近代日本の軍部と政治