内容説明
インド民族運動の嵐の中で激しく揺れ動く、三人の男女の心理的葛藤。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
93
ベンガルの裕福な家庭に嫁いだ若い妻、その夫、革命家がそれぞれに語る。初めてベンガルの口語体で書かれた小説。訳にもその工夫がみられる。1910年代のインドで書きうる限りの妻の心の浮気。20歳過ぎの若さでも、10歳で嫁ぐ習慣の土地。当時のイギリスに対するスワデシ運動の活動家が、その限界にぶち当たることで、暴力化していった事実も背景にある。当時のインドの状況がわからなくても、三人の織りなす心模様は読ませるが、やはり歴史と作者の考えを知ると、タゴールの知性が溢れていることに気付かされた。2016/10/17
NAO
63
ションデップは、インド民族運動スワデシ運動の指導者として描かれているが、この運動が行き詰まり始めテロリスト化した一部のインテリがモデルとなっている。作者はテロリスト化した運動を批判しているようだが、スワデシ運動の意義を知らない読者がこの作品を読んだらこの運動について誤った解釈をしてしまいかねないのではないだろうか。一方、ビモラの夫は、ビモラにはもったいない夫のようにもみえる。だが、彼の西洋被れも、それを妻にやんわりと押し付けているところも、インド人であるビモラにはうけいれがたかったのかもしれない。 2020/06/24
てれまこし
1
インド的なものを期待して読んだのだが、翻訳であるためか西洋の小説を読むように読めてしまった。煽動者ションディプが西洋の唯物主義、虚無主義を代表しているのかとも思ったが、解説を見るとどうもそうでもない。陰のションディプに対立して陽のニキレシュは、一応インド的な普遍主義を代表しているのだが、ヘーゲル的理想主義者でも支障がなさそう。ゆれ動くビモラがベンガル民衆の象徴であり、理想主義と現実主義を巡る民族的葛藤がテーマであると言えなくもないが、ジェンダーの問題も絡みついているらしい。素直に男女関係として読むべきか。2018/03/24
takeakisky
0
明確なポイントを持たず、ある時点から三人は決定的に道を異にするようになる。そのあとで事実を補うように現実の事柄が追いかける。このマイルドさは東洋風。彼らそれぞれがオムッロとの関係の中でダルマへ立ち返る。結末は唐突な感があるが、この後の東パキスタン独立を予見するよう。なんだか美しく纏まった構成。行儀のいい話を読んだ印象。2023/02/15