内容説明
『家と世界』は、作者の中期の作品で、初・中期の抒情性に充ちた古典的・文語的世界から、中・後期の現代的・口語的世界へと展開するタゴールの作品史の転回点となった小説である。物語は、今世紀初頭、スワデシ運動の嵐に揺れるベンガル地方の一農村の地主家を舞台に、その家の主人ニキレシュとその妻ビモラ、そしてスワデシ運動の指導者ションディプ―この三者の交互の独白によって進行する。小説の中軸は、この三者の三角関係の葛藤であり、特にビモラとションディプの間の「不倫の恋」の当時としてはきわめて生々しい心理描写である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
87
タゴールの作品を読んだのは初めて。独特の訳は、女性の立場が下だということを表そうとしたものだとは思うが、入り込むのに少々苦労したものの、それからは3人の語りに食らいつくように読んだ。作者は1913年ノーベル文学賞を受賞しているアジア人初のノーベル賞受賞者。カルカッタ有数の豪商の家の出である。全く知らない作家だったので、この機会に知ることができてよかったと思う。当時のインドの富裕層が、イギリス統治下で受けた影響は想像もつかないのだが、女性の気持ちを繊細に記述していることに感嘆した。感想は下巻で。2016/10/17
NAO
70
まだ12、3歳の頃裕福な夫と結婚したビモラ。何一つ不満はないはずなのに、ビモラは夫が慣習的ではないこと、強い態度で妻に接することのない夫の優しさに馴染めず、不満を持っている。そして、夫の友人ションデップの見た目と男っぽい言動にひかれていく。この話、インドの女性の解放を描いているのか、当時のスワデシ運動について描きたいのか、焦点がよくわからない。 2020/06/23
うちこ
5
1984年の映画『Ghare Baire』をYoutubeで見つけ、原作小説の日本語版を読みました。映画は英語のサブタイトルなので、わたしの英語力だとざっくりしか内容がわかりません。 主人公たちが交わしている会話の背景やニュアンスが知りたくてタゴールの原作小説を読んだら、サタジット・レイ監督が映画の文脈で上手に置き換えていることがわかりました。 小説は主人公三人の独白形式になっていて、あの時こんなこと思ってたのか! というのがわかって、脳内で映像回想しながら読みました。2024/07/06
てれまこし
1
題名から、インドの特殊性とヨーロッパ的普遍の相克みたいなものを期待していたのだけど、ちと違った。ハムレットとニーチェに理屈ではなく直観で動く女性の△関係という単純な構図にちょっと外したかなと思ったが、段々と人物の複雑な部分が現れてきた。いちばん複雑そうなのは煽動家ションディプだが、タゴールは彼にインドの民族運動を代表させている。外から見たインドのガンジー的な独立運動観とはちょっと違うところが興味深い。他方で、精神的なものに欠けるとされる女性の扱いだが、彼女の後ろにはどうもインドの「民衆」がいるらしい。2018/03/19
takeakisky
0
ニキレシュの妻ビモラの独白で始まる。夫のニキレシュは、裕福で教育もあり、西洋の文化にもあかるい。もう一人。スワデシの運動家だが、イギリスの文化を無批判に受け入れているションディプ。この三者の独白のリレーだが、まるで一つの体についた三つの顔のごとく根源的なギャップがない。家と世界は対立して交わらないかの如く書かれるところもあるが、一階層剥ぎ取るとほぼ同質な印書を受ける。大分理念寄りの前半で、それぞれの考え方が呑み込めたところで下巻へ。2023/02/15