内容説明
ヒ素による夫殺し(ラファルジュ事件)の裁判は、毒物鑑定をめぐって混迷し、真相が謎のまま美貌の妻マリーに有罪の判決がくだった。終身刑に処せられたマリーは、特赦で釈放された直後に世を去るが、事件の物語性は、新聞の三面記事を賑わしただけでなく、文学界をも刺激し、無名時代のゾラによって『テレーズ・ラカン』が生まれる。このほか、上流階級のスキャンダル(フララン事件)と『ボヴァリー夫人』、一家八人を手にかけた若き殺人鬼(トロップマン事件)と大衆紙『プチ・ジュルナル』の人気、暗躍するアパッシュと怪盗小説のヒーロー、アルセーヌ・ルパンの登場など、実在の事件と文学・ジャーナリズムの密接で危険な関係を、当時の裁判記録や担当刑事の回想録、新聞記事や文学作品を通して明らかにする。犯罪は文学を刺激し、虚実錯綜した創作の世界が、またさらなる犯罪を挑発する。現代社会にオーバーラップする問題を、詳細な資料と知的推理で読み解く話題の一冊。
目次
第1章 夫を殺した女たち
第2章 情痴事件のスキャンダル
第3章 殺人事件と大衆ジャーナリズム
第4章 闇のベル・エポック
第5章 犯罪と文学