出版社内容情報
シリーズ解説:
「彼を知りえたことは私の生涯の中で最も刺激的な知的冒険の一つであった」という B・ラッセルの証言を引くまでもなく、ウィトゲンシュタインの哲学的思索の軌跡は、二十世紀の知的世界が遭遇した一つの事件であった。比類のない分析力のおもむくところは、論理的に完璧な言語の構想から、具体的な語の使われ方に文法を見出そうとするところにまで及び、考察の照準は、一貫して言語の批判に向けられていた。
内容説明:
ウィトゲンシュタインは、ガンの苦痛に耐えながらも、死の二日前まで思索のペンを止めることがなかった。「知る」という語の本当の意味は何か、知識とは何か――「確実性の問題」は、この根本問題をあらゆる角度から徹底的に追及し、文字通り絶筆となった彼の苦闘の記録である。また、「断片」と題してまとめられた文章は、後期の代表作『哲学探究』第二部とほぼ同時期のもので、晩年の熟成した思想をしめす重要な遺稿である。「言語ゲーム」や「生の形式」など、ひろく知られた後期の基本概念を理解するための必読の作品である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
またの名
11
「ドゥルーズによれば○○だが、ヴィトゲンシュタイン的には~」などと思想家を振りかざす言語ゲームにも、常に疑いを向け続ける人間は参加することができない。先生の知識にそれが確実に現前してはいないことを口実にして楯突く生徒が、先生と教科書が叩き込む話を信じるようになる過程も俎上に載せて解体してしまう危険な探求。自分が何かを「知っているwissen」という確信Gewissheitを持つ共同体の一員となって言語ゲームをプレイするためには、まるで原抑圧のように疑ってはならない要素が排除される必要があるというのだから。2015/10/21
roughfractus02
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論理実証主義者たちとの討議で著者は「知ること」と「信じること」の関係を検討した。これらが緊密である場合を「確実性」と呼ぶなら、「行動様式」(椅子から立ち上がる時に足があるか確かめないこと、その理由がないことを「行動」と呼ぶ)を、「信じること」において「知ること」とは、いったいどんなことなのか? デカルトの「我思うゆえに我あり」という言葉は「確実性」を吟味するために十分な懐疑だったか? 哲学の大前提である「知ること」をめぐって死の2日前まで著者が探究を続けた「確実性」は、同時に倫理をそのテーマとしていた。2017/02/09