出版社内容情報
シリーズ解説:
「彼を知りえたことは私の生涯の中で最も刺激的な知的冒険の一つであった」という B・ラッセルの証言を引くまでもなく、ウィトゲンシュタインの哲学的思索の軌跡は、二十世紀の知的世界が遭遇した一つの事件であった。比類のない分析力のおもむくところは、論理的に完璧な言語の構想から、具体的な語の使われ方に文法を見出そうとするところにまで及び、考察の照準は、一貫して言語の批判に向けられていた。
内容説明:
二十世紀最大の哲学的天才の主著
「私の言語の限界が私の世界の限界を意味する」「世界と生とは一つである」「話をするのが不可能なことについて人は沈黙せねばならない」――これらの有名なアフォリズムをふくむ『論理哲学論考』はウィトゲンシュタインの初期思想の結実をしめす代表作である。ソナタ形式にも比せられる構成の美しさと思索の徹底性とによって多くの人々を魅了し、いまや、現代哲学の古典の地位を不動のものにしている。本巻を併せ収録された最初期のノート、手紙などは、『論考』にいたる彼の足取りを生き生きと描き出したものである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
evifrei
20
「論理哲学論考」は人生で最も多く読んだ哲学書だ。各章は独立した章であると同時に、1.1.1 と2.1.1が対応関係にあるといった形で網の目のように有機的に「世界」が記述される。最終章でのウィトゲンシュタインの記述をもって我々の世界は閉じられ、神の観念が言語の彼方に姿を示す。全ての章関係を図式化しウィトゲンシュタインの描く世界像を視覚的に表現したいと常々考えているが、まだ実行できていない。着手しようとする度に毎回熱心に読み始めてしまうのだ。論考が絡むと平静さを失してしまうファンなのだが治る気配はやはり無い。2020/09/09
34
19
草稿を読むことでウィトゲンシュタインの思考の原型のようなものが垣間見える。それをとり出すなら、「pならば、qでなければならない」という表現がふさわしい。(たとえば)命題の確定した意義が存在するならば、名前の単純な対象が存在しなければならない。世界があますところなく命題で記述可能ならば、命題の確定した意義が存在しなければならない、等々。本文では後件がたんなる要請として示され、前件がその帰結であるかのように読める。ところが草稿では、たんなる要請と見えたものの方にかなり頭を悩ませていたらしく、そこがおもしろい。2018/02/09
錯乱坊
1
学生時代に読みました。最初は構成と簡潔な文書のかっこよさに惹かれたものですが、ウィトゲンシュタインがこの1冊で哲学的課題の大半が解決されたと考えたのも、後年そうではないと気が付いたのも実はこのある意味短い論考の中に内包されていたのだと悟ったとき、この論考の価値は私の中で不滅のものになりました。ウィトゲンシュタイン自身は後年この論考を否定していたようですが、その価値は彼の手を離れて不変のものになっていたのです。
渡邊利道
1
と、いうわけで「草稿1914-1916」と付録を読んだ。2016/07/14
roughfractus02
0
Die Welt ist,was der Fall ist.いつも冒頭のこの一文で立ち止まる。著者が「そうだ」(Das ist der Fall)と首肯するのはどんな世界か? 論理学で著者の背景を問うのは愚だが、「世界」の肯定以前に言語外の「沈黙」を序に記す著者は第一次大戦という「世界」にいたのも確かだ(『論考』草稿は戦場で書かれた)。そんな読者の妄想が通るなら、件の一文は、思考(Denken考えること)が言葉の思想(Gedanken考えられたこと)では言いえない「世界」と「日常」の閾のように見えてくる。2017/02/09