内容説明
津軽の商家に生まれた鶴は、教育熱心な両親と双子の兄とともに何不自由なく暮らしていた。やがて戊辰の役が終わり、母を病で失った鶴は北海道に渡る決心をする。外国人技術者や政府の要人向けの、七重村郊外の峠下ホテルで働きはじめた鶴は、そこで開拓使御雇農業方のアメリカ人エドウィン・ダンと知り合う。互いに惹かれ合い結婚し一児をもうけるも、そんな二人に向けられる世間の目は冷たかった。時代の荒波に翻弄されながらも一途な想いを貫いた一人の女性の物語。
著者等紹介
蜂谷涼[ハチヤリョウ]
1961年小樽市生まれ。北海道を拠点に執筆活動を行なう。2008年『てけれっつのぱ』(柏艪舎刊)が劇団文化座により舞台化され、同舞台は2008年文化庁芸術祭大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆみねこ
66
蜂谷涼さん、初読み。津軽の商家に生まれ、幼い頃は男女の双子であることを理由にした差別。長じて北海道に渡り米国人エドウィン・ダンの妻になった鶴の生涯。苦難に負けずまっすぐに生きる津軽の女、お鶴さんがいたからこそ、北海道の畜産が大きく発展したのでしょうね。平川市の整美園が出てきて感動。2019/01/26
ぶんこ
52
津軽の裕福な呉服商の男女の双子として生まれ、「畜生腹」と、そして実母が労咳だったことからも忌み嫌われ、蔑まれて育った鶴さん。それでも真っ直ぐに育ち、函館のホテルで働いている時にお雇い外国人だったダンさんと結婚。父からは勘当され、籍を抜いてくれないことから正式な妻となることも叶わない日々。幼い頃から人々の偏見に苦しめられてきたからこそ、あいの子と言われて育つ我が子をアメリカに渡らせた母の愛に感動しました。若くして病死されたこと、あまりに哀しい最期でしたが、最期まで優しい夫に愛された生涯だったのが救いです。2020/08/19
おかだ
50
なんとも強く気高く儚い人生。夢中になって読んだ。江戸から大正期、北海道を開拓し酪農の礎を築いたエドウィン・ダンの妻となった松田鶴の物語。何気なく読み始めたけど、そりゃこの時代に外国人さんの嫁になるって、偏見あるし親も許さんよな…。津軽の商家生まれだが、男女の双子だったため差別と中傷に遭う幼少期、母の病気への差別、美しさや富への嫉妬、そして生まれた子供は合いの子という偏見…鶴さんの人生、いじめや偏見まみれ。日本人って視野狭いんだろうな…。でもそんな中を澄んだ心で耐え忍び気高く生きる鶴さん、素晴らしかった。2019/11/13
ばう
43
★★★ 明治時代、近代的な農業、畜産技術を伝えようとアメリカから理想に燃えてやってきたお雇外国人エドウィン・ダン、そして彼と結ばれた日本人女性鶴の物語。ダンは優しく思いやりも包容力もある素晴らしい人だし、鶴もたおやかで控えめだけれど青森女性らしく「強情っぱり(じょっぱり)」でとても芯の強い女性だ。お互い心から相手を大切にする素敵なカップルだけれどいくら愛し合っていても明治初期の日本で国際結婚は大変だっただろう。周囲から蔑んだ目で見られても常に前を向いて生きている鶴の心の強さには頭が下がる。良書でした。2019/11/25
青いうさぎ号
26
北海道の大地のような、広大な小説を読んだ。男女の双生児であることの偏見やお雇い外国人の妻になることへの反応、娘への中傷は、壮絶といっていいほど激しいのに、いつも凛として立ち向かう主人公・鶴。津軽の強情っ張りが健気でいじらしい。「辛さに堪えたところで、口惜しさは心の底に降り積もる。それを蹴散らすには、美しきものを眺めることによって、己を鍛えてゆくしかあるまい」。この本にも人を鍛える力がある。出会えてよかった。初読みの蜂谷涼さん、他の作品も読みたい。【Special thanks for いつでも母さん】2019/01/15