内容説明
公営高層アパートで起きた殺人事件から人と人とのつながりに思いを巡らせる老女(「廊下」)、離婚してゲイとしてカミングアウトすることを決心した中年男(「ディスコ」)、将来を約束された中国系の青年家庭教師とは対照的な落ちこぼれのマレー系少年(「傘」)、インド系の女友達のために貯めたへそくりを夫に掠め取られてしまうマレー系の妻(「誕生日」)など、さまざまな周縁的シンガポーリアンの姿を鋭い感性と慈しみの目で描いた短編12編を収録。
著者等紹介
サアット,アルフィアン[サアット,アルフィアン] [Sa’at,Alfian]
1977年生まれのマレー系シンガーポーリアン。シンガポール随一の名門中等学校からジュニア・カレッジへと進み、シンガポール国立大学医学部へ入学するが卒業はせず創作活動に専念。詩、劇、短編小説の各分野で幅広く活動し、数々の賞を受賞。1998年に第一詩集『荒ぶる時』(One Fierce Hour)、99年に第一短編集『廊下』(Corridor)を上梓。戯曲はドイツ語、スウェーデン語などに訳され、上演。現在は劇団W!ld Riceの座付き作家としても活躍中である
幸節みゆき[コウセツミユキ]
大阪学院大学国際学部教授。研究分野はシンガポール英語文学および英米詩(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Porco
19
いい感じなのだけれども、情感をもっとわかりやすく強調してくれるとありがたい。2017/10/12
ぷるいち
5
仕事で半年以上シンガポールに滞在して、この国の「背景のなさ」に強く愛おしさを感じるようになった。建国から50年ちょっとで、東南アジア貿易拠点であるがゆえに「通過点」でしかなく、笑ってしまうほどの強硬な政府と文化の乏しさ、アメリカへの無条件の憧憬。「シンガポールだからこそ」なんてあまり無くて、これからの成長著しい国であれば、このような文学は微妙な差異こそあれ成立するだろう。だからこそ、この国の文学は多くの関心は引かず、忘れられそうだ。そうした「まだ失われていないものへの憐み」を強く感じる。私にとっては傑作。2020/08/10
ネロ
3
なんだろう、とてつもなくやるせない気持ちになりました。読後の寂寥感たるや…。マレー系シンガポーリアンという立場は、華やかなイメージの華僑シンガポーリアンとは全く違います。一握りの億万長者が暮す街で、それ以外の人たちはこんなにも貧困に喘いで、抜けだせず、どこにもいけず明日を憂いて生きていってるんですね。キラキラした上澄みの下の澱を見るような…でも、確かにそこには生活があって物語がある。当たり前ですよね。2019/09/12
hirayama46
2
はじめてのアルフィアン・サアット。シンガポールの作家・詩人だそうです。ややマイノリティ寄りの、どこか居心地悪く生きていく人々を描いた短編集。なかなか好みの作風ではあるのですが、一編あたりの分量が長いもので20ページほどという分量のせいもあるのか、場面や情景を切り取ったスケッチ的な作品が多く、物語としてちょっと物足りない部分もありました。2021/07/26
やつき
0
今まで読んだ事のない、シンガポールの話。面白かった。文化というか、人間というか、こういう世界があるんだな、という。読んで良かった。けど、ちょっと、感情面のもやもやに傾倒しすぎというか。文学的にしよう、と異図し過ぎているような感じもした。2015/05/07