内容説明
数年間の日本での滞在生活を通して、カーターはその独特な手法で「物語」を誕生させた。現実と非現実の間で、人間の「愛と性」とは何かを定義する。
著者等紹介
カーター,アンジェラ[カーター,アンジェラ][Carter,Angela]
1940年、イギリスのサセックス州イーストボーンに生まれる。ブリストル大学で英文学を学び、1969年に『シャドウ・ダンス』で文壇にデビュー。第3作の『さまざまに感じる』が、サマセット・モーム賞を受賞。その賞金を手に1969年に来日し、2度の一時帰国をはさんで1972年まで日本に滞在した。英米の大学で教鞭もとった。1992年、肺癌のため死去
榎本義子[エノモトヨシコ]
1942年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学部卒業。ニューヨーク市立ブルックリン・カレッジ修士課程修了。フェリス女学院大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
80
イギリス人が東欧からアジアにかけて持つエキゾチスム的なものがムンムンとしている。イギリスの大学で彼女を研究対象とする生徒が多かったというのも頷ける。とても幻想的で、その世界に入り込めたら、一緒にたゆたゆと漂いながら話を楽しめる。私は人形の話が一番好きだ。日本が舞台のものは、幻想と言うより、彼女の体験談のように思え、他の作品と趣が違うように感じたのは、私が日本人だからだろう。2015/04/02
HANA
51
性の裏返しは死。九つの物語が収録されているが、どれもこれも濃厚な性の香りとその行き着く先を描いている。ただストーリーがわかりやすいのもあれば、やたらと観念的なのもあってどうにも難解。込み入った文体がそれに輪をかけるが、これは元々こういう文体なのか、それともこういう訳なのか。面白く読めたのは何となくマンディアルグを思い起こさせる「死刑執行人の美しい娘」や「紫の上の情事」「主人」といった、性によって世界が変革していくような作品群。逆に「肉体と鏡」「映像」といったものは、どうも全体像が掴みにくかった。2014/08/13
春ドーナツ
17
「日本人は調和のとれた生活をするために、活力をすべて抑圧してしまったのだ。そして彼らには、厚い本にはさんで押し花にした花の持つ、もの言いたげな美しさが備わっていた」(23頁・花火)分析的な文章とそのレトリックは私にスーザン・ソンタグを思い出させる。またエッジの鋭いひんやりとした歯触りは倉橋由美子の硬質な初期作品群をも彷彿とさせた。「この言葉(情熱・パッション)は、ラテン語の「私は苦しむ」という言葉から派生したのだ。彼は自分を苦しめる道具として、私を評価したのだった」(29頁・同上)2018/12/15
おーしつ
11
「日本では革命的な変革は決して自然には起こりえないであろう。」 日本滞在経験のあるサマセット・モーム賞作家が書いた短篇集。副題の「九つの冒涜的な物語」にある通り扱ってる題材はインモラルなものが多いが、 過剰ともいえる装飾的表現と、冷徹で客観的なぶれのない視点が、それらを「陰と陽」「静と動」「主と従」「正と反」「生と死」というものの境界に位置付け、反転させたり合体させたりする鏡のように作用させる。 解説を兼ねた訳者あとがきも充実していてこの作家に触れるには最適な一冊だと思う。2011/04/04
あ げ こ
8
美しく伏せられる前の、綺麗に歪められる前の、野蛮で、淫らで、直接的で、原始的で、醜いままの、荒々しいままの、欲望を見る。悪意を見る。情熱を見る。長い年月をかけて植え付けられ、今なお性愛を支配し続ける、残酷な法則の存在を見る。それらは未知によって見えて来るもの。未知の行為によって。未知の感覚によって。未知の光景によって。未知の慣習によって。未知の煌めきによって。未知の孤独によって。未知に在る事で、執拗なまでに触れ、感じ、未知を生きる事で。知る事になるもの。暴かれるもの。露わとなるもの。剥き出しとなるもの。2019/06/14