出版社内容情報
1999年に亡くなられるまで、数多くの作品を世に出し、三浦文学とも言うべき世界を構築した三浦綾子。全作品を通して「人はいかに生きるべきか」を問い続けた彼女の文学の魅力を、代表作を通じ、細部まで語り尽くす一冊。
第一部 「作家」の誕生
第一章 「罪」と「赦し」の物語―『氷点』『続氷点』
1 「罪」とは何か―作家の原点
2 「氷点」―底知れぬ暗い穴
3 「再生」と「赦し」
第二章 「エゴイズム」の争闘―『積木の箱』『自我の構図』
1 「人間」としての証
2 「優しさ」の出会う「地獄」
3 「エゴイズム」の争闘
第二部 「生きること」と「愛」と
第一章 生きることの意味に向かって―『天北原野』『泥流地帯(正続)』『海嶺』
1 翻弄される「純愛―永遠の愛」
2 「自然」に抗する
3 「生―死」の超脱
第二章 「聖家族」を求めて―『残像』『石の森』『嵐吹く時も』
1 二つの「家族」
2 カインとアベル―『残像』とその周辺
3 「聖家族」への道
第三章 「裁き」と「自己犠牲」そして「愛」―『裁きの家』『塩狩峠』『ひつじが丘』
1 現実―その醜状
2 自己犠牲
3 「愛」のゆくえ
第三部 「戦争」と「歴史」
第一章「戦争」を最大の悪として―『青い棘』『銃口』
1 加害と被害
2 戦争・天皇・女性
3 人間の尊厳―語りつぐべきもの
第二章「歴史」の中の女たち―『細川ガラシャ夫人』『千利休とその妻たち』
1 激動の中で―「人間らしさ」の追求
2 愛と芸術に生きる
3 「女性論」として
第四部 作家の原風景
第一章 「もう一人の私」に向かって―自伝・評伝作家
1 他者を「我」として―自伝と評伝
2 自伝(小説)―自己批評の魅力
3 先人(キリスト者)を生きる
4 「母」なるものへ
第二章 キリスト教・短歌・北海道
1 信仰と文学・表現
2 「短歌」に始まる―多様な方法
3 北海道(旭川)―風土の魅力
第五部 増補
1 三浦文学と北海道
2 三浦文学の魅力 ―「正義」と「理想」を求めて―
3 三浦綾子の自然観
4 「愛」と「生き方」の伝道者
5 三浦綾子の文学とそのトポス―『天北原野』、その他の作品から
6 三浦綾子とその発語の「場」
7 三浦夫妻の思い出
8 『母』を読む
9 『銃口』―三浦綾子文学の集大成
10 三浦綾子さんを悼む
11 三浦綾子とその文学(追悼文)
12 心に響くメッセージ
本書の元本である『三浦綾子論―「愛」と「生きること」の意味』(小学館刊)を出したのが、一九九四(平成六)年六月。三浦綾子さんが亡くなる五年前であった。刊行直後にお会いした三浦さんから「姉の百合子が、この本の著者は貴女より貴女のことを分かって書いているわよ、と言われた」と告げられ、望外の喜びに浸ったことを今更のように想い出す。あれから十四年、多少の紆余曲折はあったが、この度三浦さんの「没後一〇年」を前に、このような形の「増補版」を三浦さんが愛してやまなかった北海道の出版社(柏艪舎)から出すことになり、奇しき縁を感じると共に大変嬉しく思っている。
三浦綾子の文学が、彼女が亡くなっても依然として多くの読者を得ていることは、例えばインターネットで「三浦綾子」を検索すると、かなりの数の「読書会」や「読者のホームページ」がヒットし、そこには多くの読者が作品の読後感やら三浦綾子文学への共感を書きこんでいるという現実からも、容易に想像することができる。また、時折読者から筆者へ「小学館版」への購入問い合わせや内容に対する質問が寄せられることもあり、依然として三浦綾子の読者が数多く存在する様子を窺うことができる。さらに、国文学研究の商業専門誌である『国文学 解釈と鑑賞』の一九九八年十一月号が「三浦綾子特集」を組んだことは、『氷点』が刊行された際に、当時「毎日新聞」の文芸時評を担当していた批評家平野謙によって「不自然な小説」「すべての登場人物は作者のあやつり人形にすぎず、血の通った人間はひとりもいない」と酷評されて以来、文壇では冷遇されてきたことを考えると、三浦綾子文学もいよいよ現代文学の「王道」として認知されつつあることの証、と考えていいのではないか。
没後10年を経て、今なお燦然と輝く三浦綾子文学、その理由を紐解く本格評論集である本書を、ぜひともご覧ただきたい。
内容説明
人はいかに生くべきか―。没後10年、今なお燦然と輝く三浦綾子文学―その全てを紐解く本格評論。
目次
第1部 「作家」の誕生(「罪」と「赦し」の物語―『氷点』『続氷点』;「エゴイズム」の争闘―『積木の箱』『自我の構図』)
第2部 「生きること」と「愛」と(生きることの意味に向かって―『天北原野』『泥流地帯(正続)』『海嶺』
「聖家族」を求めて―『残像』『石の森』『嵐吹く時も』 ほか)
第3部 「戦争」と「歴史」(「戦争」を最大の悪として―『青い棘』『銃口』;「歴史」の中の女たち―『細川ガラシャ夫人』『千利休とその妻たち』 ほか)
第4部 作家の原風景(「もう一人の私」に向かって―自伝・評伝作家;キリスト教・短歌・北海道)
第5部 増補(三浦文学と北海道;三浦文学の魅力―「正義」と「理想」を求めて ほか)
著者等紹介
黒古一夫[クロコカズオ]
1945年12月群馬県安中市生まれ。群馬大学教育学部卒業。法政大学大学院(日本文学科)博士課程満期退学。現在、筑波大学大学院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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