内容説明
明治時代前期、近代日本の夜明け―旧い時世、古い人間関係を引きずりながら、新しい時代、まだ見ぬ世界を目指し、車曳きの銀次がひた走る。
著者等紹介
蜂谷涼[ハチヤリョウ]
1961年、小樽市生まれ。小樽商科大学短期大学部卒。シナリオ教室で学んだ後、1990年、「銀の針」で、読売ヒューマン・ドキュメンタリー大賞カネボウスペシャル佳作受賞。小説では、1994年、「分別回収」で文学界新人賞最終候補に、1996年、「煌浪の岸」で小説新潮長編新人賞最終候補になり、この作品を加筆訂正して『煌浪の岸』(読売新聞社)を刊行。現在は北海道を中心に執筆・講演活動を行う傍ら、uhb北海道文化放送(フジテレビ系列)「のりゆきのトークDE北海道」、HBC北海道放送ラジオ(TBS系列)「朝刊さくらい」でコメンテーターを務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
88
久々に蜂谷さんが読みたくなった。やっぱり蜂谷小説は、深い味わいがあって好いですねぇ。5つの連作が微妙にからみ合って展開していきます。明治維新の動乱期、日本の近代化の幕開けの頃、東京・北海道を舞台にした物語。蜂谷小説は切なさの中に温かさがあり、読み進めるとじんわりと面白さが滲み出てくるのが、私は好きです。5篇の中でも【漆風呂】が好きです。他家に手放した愛娘を思い遣りながら、湯船でそっと腹を撫でさする主人公・あや乃に魅かれます。本妻と対面するシーンは圧巻です。もっと、もっと読まれてよい作家さんだと思います。2020/11/22
KEI
40
時代が明治と変わり、まだ旧い時世の中でもがきながら生きる人々と新たな時代に立ち向かっていく人々との連作短編5作。狆を可愛がって姫君と呼ぶ与茂三の【姫君さま】には冒頭から吹き出してしまった。/元士族の娘で芸者にならざるを得なかったあや乃と薩摩の芋侍と蔑まれていた別所の妾となり北の大地に向かう【漆風呂】の艶やかさに女性の著者ならではのものを感じた。表題作に出てくる車夫の銀次はいなせで格好良かった。各章が絡み合い、後書きにある様に「人と人の縁がつながりながら転がっていく物語」がぴったりの作品だった。秀作。2020/12/29
青いうさぎ号
25
明治に変わったばかりの動乱期。時代に翻弄された人々を丁寧に描く短編集。あとがきに「人と人との縁が、つながりながら転がっていく物語」とあるが、その通り。誰もが、人に言えない思いを抱えながら、それでも生きて前を向いて行くんだな。人の優しさがじんわり心に染みる、いい本でした。2019/02/10
kaoriction@本読み&感想 復活の途上
18
これぞ蜂谷涼!いいねえ。すっきりするね。心地いいね。せつなくて泣ける。でも、その先の希望だ。明治時代前期、近代日本の夜明けの東京と北海道。様々な人生が微妙にすれ違いながら激動のなか流転する。運命に翻弄されつつ、もがき、苦しみ、泣いて笑って、それでも生きてゆく人たちの悲喜劇連作短編集。劇団文化座公演により、平成20年度文化庁芸術祭大賞を受賞したという。蜂谷さんの醍醐味であるその微妙なシンクロが、どう舞台化されたのか観てみたい。「漆風呂」、「熊手お多福」 が好き。おみちとおまさの胸の内、与茂三の最期に泣いた。2013/05/05
もんらっしぇ
17
読み友さん推薦の本。そもそも蜂谷涼さんスミマセン知りませんでした~女流作家さんなんですね!時代小説とはいっても幕末・明治の動乱期を得意とするそうな。短編集かと思いきや連作スタイルで各々の物語が全く関係ないように見えつつも、実は登場人物のそれぞれの生き様をお互いがわからないまま東京から北海道を舞台に遠く近く絡んだ想いの糸が皆の運命を繋ぎ終段のクライマックスに向けて収斂してゆくシンクロニシティの物語。艶めかしくも色っぽい男女の営みの表現も品があり作品に重厚感と陰影を与えていて見事。もっと読まれるべき秀作。 2019/12/23
-
- 和書
- 矢嶋楫子姉妹とその周辺