出版社内容情報
聖書は人間には語りえぬことを、神が自らひらいて示してくださったものである。それは、われわれ人間に都合のよい「答え」を与えてくれる人生の指南役ではない。人間の側からとは異なる、別の面から、新しい大きな緊張に満ちた期待と希望を持ちこんでくるものである。聖書への疑問や誤解について丁寧に解説する聖書ガイド。
★聖書をひらく★新しい人への憧れの序曲★声に出して読みたい詩編
★「レビ記」から考える、人間と生き物の間の深い溝★霊魂の不滅?
★ほんとうの友達はいるか★平和がないのに、『平和、平和』と言ってはいないか
★神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない★最初の奇跡は喜びの席で★将来から現在を見る★なぜ愛だけが最後まで残るのか★競争とは何か
★絶対的に美しい人★なんという空しさ★予定論
日本の戦後文学などについての文芸評論を書いてきた私が、聖書の言葉と出合ったのは、二十代の後半の頃でした。それは内村鑑三の著作を読むことがきっかけとなってです。
すぐれた文学作品は、現実をただそのまま写すのではなく、実際にはありえないようなことを描き出します。高校生の頃に、作家の埴谷(はにや)雄(ゆ)高(たか)の『死霊』という長篇小説を読んだ私は、非現実の場所を舞台としたこの作品が圧倒的な思考のリアリティ(現実性)をもっていることに驚かされたのです。登場人物たちは、非在という、無いものについていろいろ議論をし、「虚体」という不思議な観念について語ります。作家は、小説を“思考の容器”とよび、そこではどんな架空のことでも表現しうると言います。こうして、言葉の芸術の素晴らしさを私は多くの文学作品から教えられました。
語りえぬものを語る。そのことを最もよくなしえているのは、実は聖書なのです。スイスの神学者カール・バルトは、われわれは人間であるから、神について語ることはできない。が、神学者として神について語るべきであると言っています。
《われわれはこのふたつのこと、すなわち、語るべきだということ、語ることができないから、新しい大きな緊張に満ちた期待と希望を持ちこんでくるものです。そのことで、われわれにつねに新しい発見をうながさずにはおかないのです。カール・バルトは、それゆえに聖書は不気味なものであると言います。そして、この聖書の言葉の不気味さこそ、われわれに新しい存在として歩みはじめることを可能にしてくれるものだと思います。
この本は、そんな聖書と私の出合いのなかで生まれました。聖書は、しかし孤独な書物ではありません。教会の礼拝において多くの人々と共に、その言葉に耳を傾けることを求めています。その意味でも、聖書はひらかれた書物です。語りえたことは、それこそ広大な聖書のごく僅かにすぎませんが、この小さな本を通して、読者が聖書そのものと出合うことを願ってやみません。(あとがきより)
本書は「聖書」についての啓蒙書です。著者は文芸評論家の富岡幸一郎さん。以前に富岡さんの『使徒的人間――カール・バルト』(講談社)を読んで、あまりに素晴らしく、いつかこの著者に書いていただこうと密かに心に決めていました。それがようやく実現する時がやってきました。毎月二度ほど時間をとっていただいて、「聖書」について語っていただきました。聖書に関する、うんとわかりやすい面白い読み物を書いていただこう、という目論見はうまくかなえられたと思います。読みやすく、しかも中身の濃い、聖書の啓蒙書になりました。いままでどこから聖書を読んでいけばよいのか、そのキッカケをつかめなかった人にも、また、ある程度は聖書の知識をもっている人にもピッタリの本だと思います。
内容説明
聖書は人間には語りえぬことを、神が自らひらいて示してくださったものである。それは、われわれ人間に都合のよい「答え」を与えてくれる人生の指南役ではない。人間の側からとは異なる、別の面から、新しい大きな緊張に満ちた期待と希望を持ちこんでくるものである。聖書への疑問や誤解に対して丁寧に解説する聖書ガイド。
目次
永遠のベストセラーの秘密―聖書は宗教の本ではない
聖書をひらく―「創世記」
新しい人への憧れの序曲―「出エジプト記」
声に出して読みたい「詩編」
「レビ記」から考える、人間と生き物の間の深い溝
霊魂の不滅?
ほんとうの友達はいるのか―「ヨブ記」
平和がないのに“平和、平和”と言ってはいないか?
神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない
最初の奇跡は喜びの席で
将来から現在を見る
なぜ愛だけが最後まで残るのか
競争とは何か
絶対的に美しい人間―ドストエフスキーの聖書
なんという空しさ―「コヘレトの言葉」
神の選び「予定論」―経験としての聖書
著者等紹介
富岡幸一郎[トミオカコウイチロウ]
1957年東京都生まれ。文芸評論家。1979年、中央大学文学部仏文科在学中、「意識の暗室」で『群像』新人文学賞評論優秀作を受賞。関東学院大学文学部比較文化学科教授
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