内容説明
17世紀のヨーロッパに生きた思想家は、いくつもの難題に直面していた。人為と自然、精神と物体、そして認識と存在。キリスト教共同体とコスモロジーの動揺は、一方では人間を自己の存在の主体としつつ、他方では存在のもろさを露呈させたからである。しかも、人間存在には強さと弱さが共存するという自覚に、自然についての学の展開が重なり合う。まさにホッブズは、人間は精神を持つ肉体として自ら決定できる、しかし物体の運動には全て法則がある、という両立困難な二側面に正面から向き合った。だからこそ彼は、言語のありかたと物体の運動から根源的に考え抜き、人間の情念にも眼を向ける。そして、決定論を直視しつつも、人為的な秩序を作り出そうと苦闘する。自由意志論争から論を起こし、ホッブズの政治思想における精神の役割を探究する本書は、スコラ哲学の伝統を視野に入れつつ、大陸の合理主義的哲学と共通の地平に立ってホッブズの政治思想を捉えようとする、独創的な業績である。
目次
1章 ジョン=ブラモール
2章 自由意志論争におけるホッブズの視座
3章 制作と二つの自然―『物体論』をめぐって
4章 情念論とその政治的射程
5章 政治思想における人為と自然
結論 自然の変容と国家の制作
補論 ホッブズ研究史の一断面
著者等紹介
川添美央子[カワゾエミオコ]
1970年神奈川県小田原市生まれ。1991‐1992年London School of Economics and Political Scienceに留学。1994年慶應義塾大学法学部卒業。2000年慶應義塾大学法学研究科博士課程単位取得退学。現在、聖学院大学政治経済学部准教授。博士(法学)。専攻は西洋政治思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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