出版社内容情報
九州大学はこれまで、日本の精神医学界に大きな影響を与えたユニークな教授たちを数多く輩出してきた。著者は、「西南学派」とも呼ばれるこうした歴代教授たちの強烈な個性と開拓精神とが脈々と受け継がれる学び舎で医学部の学生時代を過ごした一人である。
時は流れ、精神科医として長く精神医療にたずさわったのち、著者は教育研究機関のなかで心理職の養成にも関わるようになった。そこで新たに培い、より深く考えたものとは何だったのか。
本書は、2001年から現在に至るまでに著者が執筆した膨大な論文や小文のなかから、比較的読みやすい論考や小論文を中心に、書評や追悼文、親交のあった人びととの心温まる交流なども加えて著作選集としてまとめたものである。
精神科臨床の現場では患者に向き合うとき、表に現れている症状の裏側にあるものまでを見ようとする。それはおそらく、患者のもつ症状のその人固有の意味を理解しようとするためだろう。
本書の著者は、「見えているもの」の裏にある「見えないもの」への関心が人一倍高く、またそれを捉える能力にも長けている。隠されたものを読み取ることによって物事をより深く広く理解しようとする著者のこの姿勢は、患者の症状のみならず、精神医学の動向や歴史の流れにまで行きわたり、あじわい深い陰影をともなった豊かな知見をわれわれに提示してくれる。
本書は、そうした細やかで透徹した眼差しを通して著者が見つめ、感じ取り、考察したことを、ときにユーモラスに、ときに真摯に、ときに繊細であたたかい言葉で綴ったものである。
目次
1 門前小僧の習い(はじめての神田橋講義;精神科臨床医の養成に王道なし ほか)
2 雑念の鉱石(精神医学西南学派縁起;エニグマとドグラ・マグラ―諸岡存助教授の関わり ほか)
3 星々を見送る(池田先生との冒険;大きな腕の中に抱えられて―追悼 中尾弘之先生 ほか)
4 「本」であそぶ(「変わり者」のパノラマ図鑑(『異常性格の世界』解説)
『分裂病の回復と養生』“書評” ほか)
著者等紹介
黒木俊秀[クロキトシヒデ]
九州大学大学院人間環境学研究院臨床心理学講座・教授。国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部・顧問。特定非営利活動法人九州大学こころとそだちの相談室・理事長。宮崎県出身。1983年、九州大学医学部卒。医学博士、臨床心理士。佐賀医科大学講師、九州大学大学院医学研究院准教授を経て、2007年より国立病院機構肥前精神医療センター臨床研究部長、2010年より同医師養成研修センター長(兼任)。2013年4月より現職。肥前精神医療センター・臨床研究部顧問を兼務。2021年~現在、九州大学大学院人間環境学府附属総合臨床心理センター長を兼務。専門:臨床精神医学、臨床心理学。所属学会:日本精神神経学会、日本森田療法学会、日本うつ病学会、など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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